110 / 120

おまけSS クリスマスデート・リベンジ(1)

 今年もクリスマスシーズンがやってきた。繁華街はイルミネーションで彩られ、そこかしこでクリスマスソングのメロディーが流れている。  年末になって常々感じるが、時が過ぎ去るのは早い。あれからもう一年が経つのか、と高山は思い返す。  去年のクリスマスは侑人が風邪をひいてしまい、残念ながらデートという雰囲気には至らなかった。その埋め合わせも兼ねてなのか、今年は相手の方から声をかけてくれたのだが――、     ◇ 「お待たせ。熱いから気をつけろよ」  ごった返す人混みのなか、高山は両手にグリューワインを持って、侑人のもとへ戻ってくる。  ベンチに腰掛けていた侑人は、手渡された紙コップを受け取るなり、律儀に言葉を返してきた。 「ありがと。いくらした?」 「これくらい奢りだ」 「いいの? じゃあ、ありがたくいただきます」  ふうふうと息を吹きかけたのち、侑人が湯気の立つグリューワインを口に含む。すると、「……あったまる」という呟きとともに、ほんのりと目尻が綻んだ。 「やっぱときたら、これだよな」  高山も言って、隣へと腰掛ける。  クリスマスデートの定番ともいえる、横浜赤レンガ倉庫――。まさかあの侑人が、自らこのような場所へ誘ってくれるとは思ってもみなかった。  侑人はゲイセクシャルの自分に引け目を感じているらしく、あまりそういった雰囲気を周囲に見せたがらない。だから今年のクリスマスも、家でのんびりと過ごすつもりでいたというのに。  ――高山さんさえよければ、一緒に行きたいところがあるんだけど。  そう切り出されたときは、思わず耳を疑ってしまった。  実際、来場客はカップルや家族連れがほとんどだし、男二人というのはやや目立つ気がする。勿論のこと、誘われた身としては嬉しいのだが、無理などしていないだろうか。 「………………」  高山は紙コップを傾けながら、思考を巡らせる。  そんなことをしていたら、ふいに侑人が距離を詰めて座りなおした。周囲の目が気になるだろうと、こちらが間隔を空けていたにも関わらず。 「なんか話してよ」  と、少し拗ねた顔をしながら見上げてくる侑人。  非日常的な空間というのも手伝ってか、どうやら要らぬ心配をしていたらしい。高山は安堵に笑みをこぼしつつ、ぽつりと呟いた。 「いいもんだな。こうして特別な誰かと、特別な夜を過ごすってのは」 「うっわ、出たよ。言ってて恥ずかしくねーの?」 「全然? 侑人も同じ気持ちだと嬉しいんだが」  いたずらっぽく言ってみせれば、相手は困った様子で視線を逸らす。  その反応からして答えは明白だ。つい意地悪したくなったが、機嫌を損ねられては元も子もないとすぐに思い直した。 「さてと。体も温まったところで、歩いて回るか」  ともにグリューワインを飲み終えると、あらためてクリスマスマーケットを見て回ることにする。  アーチ型のイルミネーションで彩られた通りには、スノードームといった雑貨類をはじめ、本場ドイツの伝統料理を提供する店が軒を連ねていた。特に飲食店の方はかなり混み合っている様子で、移動するのも一苦労だ。  まあ、これはこれでクリスマスデートの醍醐味だろう――と、人波に沿って二人並んで歩いていく。  すると、ふと高山のコートが引っ張られる感覚があった。見れば、侑人の手が控えめに裾を掴んでいるではないか。

ともだちにシェアしよう!