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第17話-4

 縋りついた遥人に、教授は人の悪そうな笑みを浮かべた。嫌な予感しかしないが、隆則に会うためならなんだってしたかった。 「そうだなぁ教えて欲しかったらまずは私からの課題をクリアしてからにしようか」 「……課題?」 「当然一つではないよ。まず最初は、学祭のシフトから私を削除しなさい。平気で目上の人間を使うその根性から叩き直そうか」  ポンと肩に手を置かれ、デスクに置いてあったシフト表をちらつかせてくる教授に、遥人は「はい」としか言えず素直に従うしかなかった。  そして隆則に近づくための言いながら教授は様々な要求を遥人に突きつけた。  公認会計士の試験に受かったと報告をすれば、次には某英語力テストで高得点を叩き出せと言われた。英語は必須科目だが試験で合格ラインを取るためだけの勉強しかしてこなかった遥人にとっては意外な要求だった。 「なぜそれが必要なんですか?」 「簡単に言えば、君が相手に見合った位置にいる必要性があるからだ。今までのように囲われていては嫌だろう。だったらより高みを目指さないと。それに、ただの会計事務所だとできない方法だからね」  隆則と釣り合う人間とはどんなものなのだろうか。そして教授が考えている方法が、一般の会計事務所ではできないというのはどういうことだろうか。分からないがただひたすら隆則のためにと苦手なリーディングもスピーチも必死で鍛えた。必要な教材を買う費用は隆則から振り込んでもらっている生活費から賄っている現状を打破したいとも思い始めていた。  今遥人が何不自由なく生活できているお金は、隆則が死にそうになりながら仕事をして得たものだ。本来なら自分のために使うはずなのに、その大半を遥人に送っている。水道も電気もガスだってタダではない。使えばそれだけ金がかかり隆則の負担になる。だから最小限にしてあまり隆則の負担にならないよう生活しながらも、彼に甘えての日々であると意識しながら勉強に打ち込んでいった。  ちゃんと就職して稼いで、自分に使って貰った分くらいは返せるようにしなければ顔が立たない。  教授の言うとおりだ、隆則が残してくれている優しさがなければ大学を卒業だってできない自分が一体何を驕っていたのだろうか。アルバイトをいくつも掛け持ちして過ごしていた過去に、その一瞬だけ手を差し伸べてくれた人は何人もいたが、ここまで遥人のために尽くしてくれた人はいない。当たり前なんかじゃない。  毎月、当然のように振り込まれるのを確認する度に「あの人はまだ自分に気持ちがある」と希望を持ちながら、ひたすら勉学に打ち込んだ。同時にいつ隆則が帰ってきてもいいように家の管理も手を抜かなかった。 「もう一度隆則さんとここで生活するんだ」  何度も自分に言い聞かせ、今彼はどこで何をしているのだろうかと隆則へと向かう気持ちを強くしていった。

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