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第17話-3

 もし愛情をバランスシートに例えるなら、与え過ぎても貰い過ぎてもいけない。対象でなければ成立しない。  自分と隆則はどうだっただろうかと振り返って、はっとした。与えることに喜びを見出して、隆則が何をしたかったのか、遥人に何をしてやりったかったのかを気付こうとしなかった。同時に自分の理想だけを押し付けていた。自分に頼らなければ生きていけない、そんな人形のような人になれと全てを奪って勝手に与えて満足していた。 「俺……」 「思い当たる節があるみたいだね。なら改善はできる」 「……隆則さんはどうして自分から出ていったんだろう」  そんな身勝手な相手なら教授の言うように遥人を追い出せばいい。自分勝手なことばかりして自己満足して飛べないように平気で鳥の翼を千切ろうとする相手など放り出せばいいのに、隆則が取ったのは自分が出ていく選択肢だった。 「んー、そこが面白いところだ。君にとって何が最善かをちゃんと考えている。君の夢を叶えたいが側にはいられない。だから水谷君が苦労しないよう環境を変えず自分から身を引いたとしか思えないね。随分と愛されている」 「愛されて……いるんでしょうか。最初に『好きだ』と言われてからそのあと一度も言ってくれなかったし、何も話してくれない。嫌なことがあったら言ってくれてもいいのに……」 「愛していなければ自分名義の家を君に任せてちゃんと生活費も振り込んで消えるようなことはしないだろう。しかも大学を卒業するまではいていいとまでいう。とても懐の深い相手だ、私ではできないね」 「そういう、ものなんでしょうか」 「好きだが傍にいられない、そう感じたよ。次は君が相手の愛情に応える番だ。自分勝手なやり方ではなく、きちんと話し合ってすり合わせをして、どうすれば心地よい関係になるかを模索しなさい」 「はい……でもどこにいるのかわからないです」  隆則がどこにいるのか皆目見当もつかない。どういうところが好きなのか、遥人と出会うまでどんな場所によく行っていたのか、何も知らない。それどころか、どうしてあんなにも自信がないのかも聞いてこなかった。目の前にいた隆則には多くの苦い過去があったはずなのに、自分は目を向けようともしなかった。ただ甲斐甲斐しく世話をしている自分に満足し、他の男に身体を許したことに怒って、全てが自分のものになったと歓喜していただけだ。そこには隆則の意思はどこにもなかった。  セックスだって辛いから頻度を減らして欲しいと乞われなければ気付かないほど、自分の欲望をただ忠実にぶつけていただけだ。受け止める隆則がどう思っているのか、遥人とするのをどう感じているのか、深く考えたことはなかった。 「……自分がこんなにも浅慮な人間だったと思わなかった」 「気付けたなら成長するだけだ。それに見つける方法はあるんだが、今の君には無理だな」 「どっ、どういう方法ですか!」

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