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第18話-14
グンッと胸の中にできたばかりの蕾が膨らみ花開こうとする。
「ごめん……」
「……っ」
戦慄く唇と呼応するように涙が浮かぶ。零れさせないためにギュッと目をつぶっても眦を伝ってそれは溢れ出ては耳の横を通って髪に伝う。
大切な言葉を、本当なら年上の自分が言わなければならなかった。不安で押しつぶされてばかりではなく、もっと勇気をもって彼に向かい合えばよかった。遥人は言葉を優しく甘く心に届けてくれるのに、自分は何もしていない。彼という存在がそこにいるだけでいいと満足しては、失ってしまう恐怖を勝手に抱き、失うのならと勝手に手放した。そんな自分を今も好きだと言ってくれる彼に自分は応えることができるだろうか。
(違う、しないといけないんだ)
怯えてばかりいないで自分から一歩を踏み出さないと。
隆則は乾いた唇を舐め、大切な一言をそこに乗せた。
「ごめん……君に言わせて、ごめん」
泣き出すのを堪えるために下顎に力を籠め、何度も深呼吸を繰り返す。
「俺、も……好きだ」
絞り出した言葉は震えて途切れがちで、これ以上上手く言えない。言いたい言葉はたくさんある。伝えたい気持ちが溢れ出してくる。そのどれもこれもが口をつく前に柔らかい感触が唇を塞いだ。
ただ合わさるだけの優しい口づけ。
すぐに離れてはまた啄んでくる。
少し厚い唇の感覚はずっと忘れられなかった想い人のもので、ずっと夢想していたものだ。何度も合わせては離れれる優しいキスにポンッとあの色鮮やかな大輪の花が咲き誇る。以前よりもずっと艶やかに花弁を広げ隆則の心を埋め尽くしていく。
初めて、隆則は心が満たされるのを感じた。
恋は人を変える。けれど自分が恋するだけでは何も変わらなくて、愛されて初めて変わっていくのかもしれない。
今までの隆則は遥人が寄せてくる気持ちに疑心暗鬼で素直になれなかった。
けれどこれからはきっと言えるような気がする。
離れた唇の隙間から吐息と共に零していく。
「遥人、好きだ」
「俺もです」
もう一度唇を合わせ、遥人が両脇に手を入れ隆則を立たせる。啄むばかりじゃないキスをするためだと分かっているから彼の首に腕を絡め、つま先立ちになりながら唇を僅かに開いて舌を差し出した。肉厚の舌がすぐに絡めとってきて口腔へと導き、甘く噛まれながら深いキスへと移行していく。
(きもち、いい……)
鼻孔を擽る遥人の匂い。シャツ越しに伝わってくる体温。甘い唾液を喉仏を上下させながら飲み下せば一層激しさが増す。
「んっ……」
鼻で息を繰り返しても甘い吐息が漏れてしまう。もうずっと味わっていなかった感触に、飢えた旅人のように必死になって遥人から与えられる甘やかな口づけを貪りながら息が上がっていった。ようやく離されたころには身体の力は抜け、首に腕を絡めたまま遥人の肩口に額を押し付けて肩を上下させた。
そんな隆則を抱きしめたまま、僅かな隙間も作らないとばかりに腕に力を入れていく。
痛みすら心地よいのはなぜだろう。身体を遥人に預けながら愛される幸福感に浸る。
「風呂、入りましょうか」
それが甘い時間の継続を意味すると分かっていて、隆則は小さく頷いた。
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