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第18話-13
空いている手が頬をゆっくりと確かめるように撫でてくる。それは、以前と変わらない、まるで高価な宝石を扱うような丁寧な手つきでゆっくりとなぞるように確かめられる。
「でも……最後の方は目も合わせてくれなかった」
「あれはっ……ゼミの女の子たちに言われたんです。俺が隆則さんにしていることが非人道的だって……あの子もその一人です。恋人はいるかって聞かれて、隆則さんのことを話せるのが嬉しくて色々喋ったら人間として扱ってないって」
遥人の頬が赤くなる。それでも撫でる手は止まらない。
「……だから隆則さんとどう接していいかわからなくなって……出ていかれた後に教授にも言われました。俺の愛し方はマスターベーションみたいだって。だから隆則さんは出ていったんじゃないかって」
「ちがう……そうじゃない……」
本当に違う。ただ遥人を困らせたくなかっただけだ。
「でも、あのやり方じゃ俺のこと信じて貰えなかったんですよね。いつか心変わりするんじゃないかって思われてたって、信じさせられなかった俺が悪いんです」
「違う、そうじゃないんだ……」
ただ自分が小心者で臆病なだけだ。遥人は何も悪くない。新しい恋人ができたからというのは、体のいい言い訳だ。いつかその日が来るのをずっと怯えながら傍にいるのに疲れ果てたのだ。今まで一度として叶わなかった恋と同じように、この恋もまたすぐに終わるだろうと勝手に決めつけていた。
「俺、隆則さんのこと、知ろうとしなかった。だから出ていかれた時に行きそうな場所の一つも思いつかなかった。それどころか、隆則さんが仕事以外何もできないのをいいことに、この部屋に閉じ込めて俺がいなきゃ生きていけない人にしようとした……今ならわかります、すっげー子供みたいな一方的なやり方だって。そんなんじゃ隆則さん、愛されてる自信なんか出てくるわけないって」
「は……ると?」
名前を呼べば優しい眼差しが降ってくる。
「ごめんなさい、隆則さんを安心させられなかった俺も悪いです」
違う、隆則は緩く首を振った。
一番悪いのは年上なのにいつまで経っても自信が持てない自分だ。臆病だからと、小心者だからと自分に言い訳して、目の前にいた彼と向き合おうとしなかった。こんなに苦しめていたなんて考えもつかなかった。自分はいつか捨てられると怖がって彼の心に踏み込みもしなかった。ただの気まぐれだと逃げ続けていたのだ。
「ねぇ隆則さん。俺はあなたが好きです。もう一度、恋愛してくれませんか? 今度はちゃんと隆則さんの気持ちを訊いて、俺の気持ちを話して、あなたが不安にならないくらい愛しますから……今日を初めての日にしてもいいですか?」
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