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第18話-12
「すみません」
泣きそうな声で痛みを訴えればすぐに手から力は抜けたが、放さないまま横に立ち続けている。全てを話さなければ許してくれない雰囲気に小心者の隆則は押されてしまう。ぽつり、ぽつりと思い出すようにあの頃のことを口にした。
「君が板挟みになって困ってるの分かってたから……あの子との方が似合ってるし自然で……俺がいなくなるのが一番だって」
「どうしてそれを話してくれなかったんですか?」
あぁやっぱり。自分の想像通りだ。
目を伏せながら自嘲の笑みを浮かべる。
「話したら君は困るだろう。遥人は優しいから俺を見捨てられない」
生活能力がなくて食事を作ることもできなければ部屋の掃除もできない、本当にプログラムを作り上げるしか能がない自分が目の前にいて、それを見捨てて本命の所になど行けるはずがない。分かっているから消えたのだ。
「俺がいつまでも目の前にいたら、困るだろう?」
「……それで内緒で引っ越したんですね」
「うん……」
「あれが彼女でもなんでもなく、ただの知り合いだと思わなかったんですか?」
「……違うだろう。だってあんなに親しそうに話してて……それにいつか遥人が俺に飽きるって分かってたから」
俺のことは気にしないで、大丈夫だから。
なけなしの年上としての矜持で呟く。本当のことを言われても傷つかないからと平気なふりをして身構える。
それで安心したと、次に進めると遥人が口にするのをひたすら待ち続けた。
「……あの子は彼女でも恋人でも何でもありません、ただのゼミの仲間です」
呆れた言葉の内容がいまいち掴み取れない。
「じゃあ別の子?」
「あーもうっ! なんだよ、そんなことで俺振られたんですかっ」
「ひっ」
地を轟かすように怒鳴る声にまた身体をビクつかせてしまう。
「勝手に勘違いしないでくださいっ!」
大きな手が顎を掴み俯くことを許さないばかりか顔を合わせる角度まで首を倒させる。仰け反った隆則の柔らかくコシのない髪がパラパラとサイドに流れていく。きちんと目を合わせるのは再会して初めてだ。レンズの奥にある瞳が今までにないくらい凶暴で怖いのに、じっと見つめられている事実に胸が高鳴り、根がそれを養分に吸い上げまた蕾を作り始める。
「俺の恋人は……俺が好きなのはあの時からずっと、隆則さんただ一人です」
「ぅ……そだ……」
「信じてください……だからこの部屋から離れられないんです。出ていったらあなたとの縁が切れるみたいで怖くて……隆則さんを見つけるために俺、めちゃくちゃ頑張りました」
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