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第20話-1

「うん……うん。中はそんな感じだけど、UI(ユーザーインタフェース)はどうするつもりだ? ちゃんとデザイナーに頼んだ方が……うん……システム重視だけじゃなくてゲーム並みに分かりやすいのじゃなきゃ」  少し遠くに愛しい人の声が聞こえる。いつもよりも声は硬く厳しいのは仕事のやり取りだろうか。薄く目を開ければドアの向こうに朝日を浴びながら裸のまま立っている細い後姿があった。  顔が見れないからとあまり後ろからすることはないが、無駄な肉どころか必要な肉すらないくせにお尻だけがきゅっと上がって綺麗な丸みを見せている。  後ろからしたらどんな反応をするだろう。でも顔を見たいから鏡の前で啼かせようか。そのためには大きな姿見を買って……と淫らなことを考えながら遥人はベッドから降りた。いくら初夏とはいえ裸のままでは寒いだろうとタオルケットで細い身体を包み抱きしめた。 「いっ……いやなんでもない。だから見積り出すならちゃんとそこも含めたバージョンと、前に作ったUIの凝ったヤツのスクショをサンプル画像として添付しておけばいいんだよ。二パターン出して決めて貰えば……工数? それはお前が頑張るんだよ。仕様書ががっちりしてたら二週間、そうじゃなかったら一ヶ月だと思え」  仕事の話はなるべく聞かないようにと以前ならすぐに傍を離れていたが、今度はそんな愚は犯さない。電話中で文句を言えないのをいいことに引きずってはソファに腰かける自分の膝に乗せた。  ぎょっとした顔をしていても藻掻いたりの抵抗はない。これ以上は何もするつもりはないと示すように抱きしめたまま静かにしていると遥人の意図を感じ取ったのかまた電話に集中し始める。 (この気安さはあの人か)  昨日会ったSEの顔を思い出す。以前勤めていた会社の後輩だというのを一度だけ耳にしたのをずっと覚えている自分の執念深さに感服さえしてしまう。覚えていたおかげで再会できた。  教授が教えてくれた隆則を見つける方法は、仕事の発注だった。関係のある会社を覚えていればそこを通じて打ち合わせの場に出させればいいと。乱暴だが確実な方法ではあったが、確かに小さな会計事務所ではできない。そこで教授の推薦という形で今の外資系監査法人に入った。丁度新しいシステムの導入を検討していると聞いて、迷いはしなかった。  公認会計士になるためには資格試験に合格するだけでなく、二年の業務補助経験が必要で、並行して実務補助のために「実務補修所」に三年ほど通わなければならない。業務補助はどの事務所でも問題ないが、できる限り早く隆則と会いたくて教授に薦められるがまま今の会社に入った。外資系だから英語力をあれほどつけさせたのかと納得すると同時に、胸が高鳴った。

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