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第20話-2

(また隆則さんと会える……今度はもう逃がさないっ)  システム開発の窓口になりたがる同期はいなかった。そんなことよりも実務経験を積んで早く一人前になるんだと鼻息を荒くしている中、遥人は喜んで立候補した。そして隆則が一番仕事を引き受けている会社を挙げ、連絡した。 (ここまで長かった……)  けれどこの人は戻ってきてくれた。  腕の中の重みと温もりに顔を埋め肺一杯にその匂いを嗅いだ。 (隆則さんだ……)  仕事の電話を邪魔しないように、けれど夢じゃないと実感したくて抱く腕に力が籠ってしまう。 「分かった……うん、じゃあ」  電話を切ったのを確認し、じっとしていた自分を褒めながらご褒美とばかりに隆則の頬にキスをする。 「おはよう……うるさかったか?」 「いえ。ベッドに隆則さんがいなかったから栄養補給に来ました」 「……なんだよそれ……」  以前と少し違う態度でそっぽを向きながらも首筋まで赤くなっているのが可愛くて、引き寄せられるようにそこにもキスをする。 「んっ……」 「朝からそんな可愛い声を出さないでください。またベッドに逆戻りしちゃいますよ」 「だめっ……今日も仕事だろう? 何時に始まるのかわからないけど……」  相変わらず曜日感覚のなさに自分が愛してやまない隆則が戻ってきたのだと実感する。もう夢じゃない、この手の中にあるのはあの頃よりもずっと痩せ細ってしまったが自分が初めて愛した人だ。 「今日は土曜日です。だからなにも問題ありません」  横に抱いていた身体を正面に向かせ自分を跨らせると、一層ほっそりとした頬を両手で包んだ。 「おはようのキス、してください」  以前はがむしゃらに隆則を貪りつくすしかできなくて、一緒に住んでいたのにこんな甘い時間なんて持ったことはなかった。それで不安を感じられても仕方ないことだ。これからはもっともっと年上なのに不器用なこの人が甘えられる空間を作らないと。  たった一年半、それでもあの頃よりは少し大人になれたと思う。  こうしてキスを求めるだけで真っ赤になる隆則を可愛いと思えるくらいに。  おどおどして甘い時間になど慣れていない不器用な恋人はギュっと目をつぶり唇を近づけてくる。 (本当に可愛くて、あんなにやってもまだ欲しくなる)  挨拶にふさわしい啄むだけのキスを繰り返し、ゆっくりと緊張を解していく。キスなんてもう何度もしているはずなのに、それでも身体を固くする不器用さが愛おしくて、朝だからというだけではなくある部分が元気になっていく。

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