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分裂と過剰と悦びと(遥人が二人になりました!?) 3

 背中を冷たい汗が流れるのを隠し、固まった笑いを貼り付かせる。 「でもこういうネタ、結構ありますよね。ノラえもんでも複数にコピーを出すことができる機械がありましたし」 「遥人でもノラえもんを観るんだ、意外だなぁ」 「そりゃ国民的アニメですから。でもあの機械の方が良いな……あれだったら無限に隆則さん増やせますし、仕事用隆則さんと俺用の隆則さんが必要だから……ざっと五人いれば充分か」 「五人!?」  さすがに多すぎるだろう。仕事用に二人と遥人用の一人で充分と考える隆則だが、遥人はニヤリと笑って細い腰を抱きしめてきた。 「まあ、全員俺用ですけど」 「ひぃっ! ……もしかして、満足してない、のか?」  そりゃ、仕事に入れば平気で終わるまでは相手ができないが、月に相応の回数は相手をしていると思っているし、荒れで満足しないとなるとどれだけ絶倫なんだと思わずにいられない。  確かに遥人はまだ二十代だ……もう後半だが。 「その……飽きないのか?」  彼と最初に関係を持ってもう七年だ。普通なら互いが空気になってもおかしくないのに、遥人は未だに貪るように抱いてくる。 「飽きる? そんなにしてないじゃないですか」  嘘だ。月に数度は意識をなくすくらいしているじゃないか。  そう叫びたくてぐっと堪える。もしここでそんな話をしてしまったら「では実戦しましょう」とか言い始めて仕事があるのに雪崩れ込んでしまう。  五年も一緒に住んでいれば彼が何を言い出すのか予測できるようになった隆則は、すぐさま「そ……そうだな」と言ってその手から逃れようとした。  とてもじゃないが、まだ仕事が残っている。締め切りには余裕で間に合う内容なので切迫はしていないが、今日はこの後仕事をすると決めているのだ。 「では、仕事が終わったら証明しますね、楽しみにしていてください」  格好いい顔を妖しく歪め、遥人の手が離れた。 (助かった……のか?)  なんか、仕事が終わったら大変なことになりそうだが、逃げ出すという選択をしていないことに気付かないまま、隆則は仕事部屋に逃げ込んだ。 「そういや、今月はまだやってなかったな……」  仕事用の机に向かった途端、自分が犯した罪を思い出す。カレンダーを見ればもうすぐ下旬だ。それくらい速人を放置していたことを意味している。 「あーー、あれって……やばいな」  淋しさの裏返しだったのかもと思い直し、実はあんな雰囲気を出しておきながら逃げる道をちゃんと作る優しさに申し訳なさが湧きあがる。

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