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分裂と過剰と悦びと(遥人が二人になりました!?) 4
「この仕事、早く終わらせよう」
明後日までに作り上げれば一週間は遥人のために時間を充てられる。それで罪滅ぼしになると良いのだが……。
「よし、やるぞ!」
そうと決まればぼんやりしている暇はない。
隆則はキーボードに手を乗せると、脳内にあるプログラミングコードを一気に叩き始めた。
「こんなところで寝ていたら、風邪を引いちゃいますよ」
うつらうつら仕事用の椅子に腰掛けたまま眠気と闘っていると、甘い声が頭上から聞こえてきた。
――ごめん、ちょっと仕事を詰め込みすぎた。
言いたいのに疲弊しきった身体は眼球を動かすので精一杯だ。
「仕事は終わったんですか?」
頷く代わりに視線で返事をする。長い付き合いで、それだけで遥人の顔がふわりと柔らかくなった。
「ずっと詰め込んでたので疲れたでしょう。寝る前に風呂に入りましょう。俺、運びますから」
――いい、臭いし重いし。起きたら自分で入るから。
「ダメですよ。本当はご飯も食べさせたいところを我慢しているんですから、せめて風呂だけは入ってください」
軽々と隆則の身体を抱き上げた遥人は、いつものように悠々とバスルームまで運んでいく。バスタブの横に下ろし、着衣を剥がすのもお手の物だ。なんせ仕事が終わる度に遥人の手を煩わせてしまっている。
――面倒をかけてごめん。
すぐに倒れてしまいそうな身体を支えながらの作業は骨が折れるはずなのに、遥人は嬉々としてシャツを脱がしていく。慣れた手つきで裸に剥かれた隆則の身体をもう一度抱き上げると湯船にゆっくりと下ろした。
――気持ちいい。
筋肉が解れるのがわかる。ずっと同じ姿勢のまま動かなかったせいで身体は凝り固まってしまったが、血が巡るのと同時に筋肉が弛緩していくのを感じる。
仕事をしている間、風呂どころか寝食まで忘れてしまう隆則にとって、この瞬間が一番安らげる。掬ったお湯を遥人が肩にかけてくれるから、全身に力が入らなくなっていく。
――このまま、寝てしまう。
重くなる瞼が落ちる前に視線で告げれば、精悍な顔が蕩けたような笑みを浮かべた。
「全部俺がやりますから安心してください……寝られるかどうかわかりませんけど」
不穏な単語が耳を過ったが、疲れて死にそうな頭にまで届かない。
湯船に浸かったまま頭を洗われ、引きずり出されて身体中を綺麗にされた。そこまでは隆則も心地よい手つきにうっとりとして、本当に寝てしまいそうになった、のに。
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