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分裂と過剰と悦びと(遥人が二人になりました!?) 8

 おねだりなんてできない。自分の方が十五も年上で。年下の遥人に溺れていると言うだけでも恥ずかしいのに、その上淫らなおねだりなんてできるはずがない。というのに、遥人はいつだって求めるのだ、言葉にすることを。  もう七年も攻防戦を繰り広げているのに、未だに互いに一歩も引かないから、仕事明けのセックスで隆則は前後不覚になるまで悶える羽目になる。  分かっているから余計に、恥ずかしくて言葉になんてできない。  淫らに腰を振って煽るが、気持ちの良い場所は巧妙にはぐらかす指は、何度も抜けてはローションを纏って挿っては、ぬめりを塗りつけるばかりだ。 「は……るとぉ」  甘えるようにその名を呼ぶ。 「だーめ。隆則さんが明日も明後日も起き上がれないくらい、めちゃめちゃにするんですからすぐに達ったら大変なことになりますよ」  酷い。じわりと眦に涙が滲むのに、遥人はクスリと笑うだけでまた唇を塞いできた。  仕事で疲弊しきった脳は、もう一つの存在をすっかり忘れ、ただただ遥人から与えられる愉悦を貪るのに夢中になって自ら腰を差し出していく。臀部を揉まれながら蕾を解す動きにうっとりとし、気持ちいいと舌を絡ませることで遥人に伝える。  大きな手が胸の尖りを抓むまで。 「ひっ……え……? あっあっ!」  なんで? 遥人の手は確かに臀部を揉んで蕾を解しているのに……。 「やだっやだ!」  思い出したもう一人の存在に隆則は慌てて抵抗を始めた。だがすでにキスで溶かされた身体ができたのは僅かに上体をひねることだけ。遥人の膝から下りることも、首に回った腕を外すこともできない。小さな抵抗に「やっと気付いたの?」と遥人は笑った。 「本当、隆則さんは気持ちいいことに弱すぎ。安心してって言ったでしょう。後ろのも、隆則さんをどうしたら気持ちよくなるか、よく知ってるから」 「な……んで……。もしかして、矢野さん?」 「……なんでここであの人の名前が出てくるんだ」  遥人と付き合う前までお世話になっていたデリヘルのキャストの名前を出せば、一気に精悍な顔に不機嫌な皺が刻まれた。中の指が感じる場所を強く押してきた。 「いっ……それもっと……ああっ!」 「俺が隆則さんを抱くのに他の人間を呼ぶなんてできないってわかんないんですか?」 「そうですよ。こんなに色っぽい隆則さんを他の人間に見せるなんて、もったいなくてできません」  同じ声が前と後ろからやってきて、余計に隆則は混乱した。ビクビクしながら後ろを振り向くと、見慣れた愛おしい顔が近づいてきた、後ろから。

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