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プロローグ〜地獄の道行き〜*

 映画の中のヤクザたちは、いつだって男らしくてかっこよくて痺れる。  小さな橋のたもとで、復讐の道行きに手と手を取り合う兄弟仁義。二人が乗り込んだ屋敷の中、ばったばったと敵を斬り伏せ、主人公の背中に見える鮮やかな刺青は唐獅子牡丹(からじしぼたん)。  義兄弟の契りを交わした男たちは、死ぬも生きるも一緒だと、ふと口をついて出るその言葉は「ご一緒願います」  ……それ、なんてタイトルの映画やっけ。  庄助(しょうすけ)は、ぼんやりとした頭で思った。知らない間に滲んだ涙が目の縁で冷えて、ぽたりと一筋頬に流れた。 「は……っあ、っあ……」  切羽詰まったような、むずかるような甘い声が荒い息とともに吐き出される。身体のどこもかしこも熱くて痛くて、本当は泣きわめきたかった。 「庄助……」  低い男の声が顔の上から降ってくる。自分を犯しているそいつの顔を見たくなくて、庄助は首を横に捻じ曲げた。  身体の中心を穿たれる鈍痛に混じって、骨盤に広がる疼きのことを認めたくなかった。  横を向いた頭を押さえつけられ、首筋に噛みつかれて、身体が竦む。犬歯が食い込む。 (あ、喰われる) 「あぁっ……ヒ……!」  息を吸い込むと、汗の混じった男の髪の香りがした。じくじくと食い破られる皮膚から、おぞけが背筋まで電撃のように走る。  庄助は射精していた。顔の脇にある男のがっしりとした腕に自らの両腕を巻き付けて、あられもなく縋り付いた。 「は、ぅ……」  涙でぼやける視界に、虎の入れ墨。男の肩に彫られた和彫りの虎が、庄助の痴態を見ていた。 (俺、ヤクザに抱かれてる……)  事実を咀嚼するのに時間を要する。腹の上に撒き散らかされた自分の精液がぬるい。  男は依然として、庄助の中に自身のペニスを埋めたまま、それを指で掬う。 「や……め」  指先から垂れる庄助の精液を自らの舌の上にねっとりと乗せると、味わうように飲み込む。やめてくれと言いたかったが、息が上がってうまく言葉にならなかった。  男の白い喉仏が何度か上下した。唇を一つ舐めると、長い前髪の間から獰猛な瞳で庄助を射抜くように見つめて言った。 「庄助、庄助は……俺のものだ」 「き、ひ……ッ」  再び開始される律動に、庄助は奥歯を噛みしめる。先程噛まれた首筋の噛み跡を、今度は舌の広い面でザリザリと舐められる。  さながら、猫科の大型の獣が骨からざらついた舌で肉を削ぐように。恐ろしい気持ちと反比例するように、男が触れているところが全部、気持ちよかった。 (喰われてる……)  命を、尊厳を全て男の前に投げ出すようだった。腹を見せて完全降伏、諦めによく似た快感は退廃的で味わったことがない。  とてつもない快楽に溺れそうな予感に、庄助は愉悦とも屈辱ともつかぬ声をあげた。

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