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1.ミナミのタスマニアデビル③

 庄助はこの度、知り合いのツテで東京のヤクザ事務所に入った。  はたしてこれを就職と呼べるのかはわからないが、23歳の春のことであった。  幼なじみがそっち方面に顔が利くということで、ちょうど就職先の整備工場を先輩と喧嘩して退職し、ブラブラしていた庄助は一も二もなく、東京の暴力団事務所、織原(おりはら)組の矢野耀司(やのようじ)組長率いる矢野興行を紹介してもらった。  もともと庄助は任侠や極道といった、昔ながらの男らしい世界に強い憧れを示していた。  きっかけは母親が暇つぶしに観ていた昭和のヤクザ映画だったが、そこからなぜか火がついたように極道にのめり込み、多感な思春期を昭和のヤクザ映画を観たりヤクザが主役のゲームをしたりして過ごした。 「んで、まあ直接紹介してもらったなら聞いてると思うんだけど……部屋住みってわかるかな。早坂くんが一人前になるまでは、景虎と一緒に住んでもらうから」 「遠藤さんとですか?」  庄助は猫のような大きな目をさらに見開いて景虎を見た。  部屋住みとは、まだ自力でシノギを獲得することのできないヤクザの下っ端が、兄貴分や組長などと同居し使い走りや身の回りの世話をすることで小遣いをもらって生活する、極道独特の制度だという。  庄助は景虎をちらりと見た。無表情を崩さず何を考えているのかわからない。 「景虎は組長の息子みたいなもんでね、まあ血は繋がってないんだけど。一緒に住むついでにいい友達になってやってほしい、って言ってたよ。ほら、今って若い人はヤクザやりたがらないじゃない? みーんな気楽だからって半グレなんかになっちゃって。景虎と同世代の子ってなかなか入ってこないからさ」  国枝は捲し立てた。もとより庄助も部屋住みだという話は聞いていた。人懐こい気質の上、家賃光熱費が浮くと思って身一つで大阪から出てきたのだ。  しかし、電話口で織原組の人に事務所に来てくれとは言われたものの、一向に組長らしき人は見えない。偉い人だからそんなおいそれと会えないか。と、勝手に納得した。 「そんなわけだから、よろしくね。今日は二人で早く帰って明日また来て。雨降ってるから、クルマ使っていいぜ。景虎、荷物積んであげな」

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