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1.ミナミのタスマニアデビル④
結局一度も応接間のソファに座らぬまま、庄助は事務所を後にした。
エレベーターは使わず、階段を一段飛びに降りていく景虎の後ろに着いていった。
事務所のある3階を後にして、ビルの斜交いにある猫の額ほどの大きさの月極駐車場まで移動する。
雨はまだ降っていたが、景虎は傘もささずに長い脚でぐんぐんと進んでいく。
庄助の大きいスポーツバッグを駐車場の白いハイゼットカーゴの後部座席に載せてしまうと、景虎は運転席に乗り込んでシートベルトを締めた。庄助も慌てて、助手席に濡れた身体を押し込む。
「家、近いんですか」
ワイパーがフロントガラスを一往復し、雨粒をさらう。エンジンをかけると、尻の下で動物が唸るような小さな振動が起きた。
「20分、かからないくらいだ」
こちらも見ずに景虎は言った。感情のない声だ。もしかして、いやもしかしなくても、勝手に組長に部屋住みなんて決められて嫌なのかもしれない。庄助は思った。
可愛い女の子ならまだしも、こんなどこの馬の骨だかわからない、チンピラみたいな男と住みたい理由はない。
「あの俺……一人前になるまで、兄貴のお役に立つようにがんばります。よろしくお願いします」
車が発進してしばらく、二人は言葉を交わさなかったが、意を決して庄助が話しかけた。
しおらしく、だが真剣な声音で伝えた。庄助とて、同居であまりに気を遣うのは本意ではない。
まとまった金ができたら出ていこうとは端から思っていた。景虎はチラ、とバックミラーで後ろを確認し、車線変更をした。
「兄貴」
「ん?」
「兄貴って俺のことか?」
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