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1.ミナミのタスマニアデビル⑤

「あ、はいそうです」 「変な感じだ」 「もしかしてイヤですか?」 「そうじゃない」  ウインカーの音がカチカチとうるさい。景虎の言葉は短くて要領を得ないが、確かに嫌そうではなかった。庄助が顎に手を当てて、その言葉の真意を考えていると、ボソッと景虎は呟くように言った。 「よくわからなかったから、何も用意できてない」 「何がですか?」 「歓迎パーティー的なやつ」 「パーティ!?」 「何が必要なんだ? こう……パンって音のなるアレとか」 「クラッカー?」 「それだ」 「いや、いらんっすよ! 男二人でクラッカー鳴らして、何がおもろいんすか」 「何人なら鳴らして楽しいんだ?」  ……この人ってもしかして、不思議ちゃんってやつなんやろか。ようやく庄助は思い至った。  別段庄助の存在が嫌だとかうざったいとかではなくて、どこか口下手でちょっと世間ずれしているような。少し会話してみてそんな印象を受けた。  運転する景虎の横顔を見つめる。ぴんと伸びた背筋の上に、骨格こそしっかりしているが身長と体格の割に小さな頭が乗っている。高い鼻梁とぐっと凹んだ奥行きのある目元とともに、およそ純日本人には見えない。よく見ると唇の下に一つホクロがある。  幾何学模様だと思っていた景虎のドレスシャツの柄は、目を凝らすと何らかの寸胴な動物の総柄だった。なんの動物なのかはわからない。変な服やけどイケメンが着るとサマになるもんやな、と庄助は思った。頬の傷と変な服がなければ、普通に芸能人やモデルでもやっていけそうな美形だ。 「クラッカーはいらんけど、兄貴ってお酒飲みます?」 「……飲まないことはない」 「あっじゃあ、買って帰りません? 飲みながら、仕事のこととか色々聞かせてほしいです」  庄助は人好きのする笑顔を浮かべた。ヤクザになろうという男とは思えないほど邪気がない。景虎は横目で庄助を見ると、コクリと一つ頷いた。

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