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2.ハイエナと疫病神②
「あ、カゲ」
「お疲れ様です、倉庫の中のゴミ片付けておきました」
重い荷物を持って、ゴミ捨て場と3階の倉庫を何度も往復したからか、筋肉の血流が増えて膨らんでいるのがシャツ越しにもわかる。その割に、息は一つも乱れていなかった。景虎は、シュークリームを頬張る庄助の姿を目の端でとらえると、国枝に向き直って軽く頭を下げた。
「おつかれ~。さっき、次の現場の地図送ったけど見た?」
「まだです」
景虎はポケットからスマートフォンを取り出すと、画面をじっと見つめた。
「この現場は?」
「潰れた食品会社の社宅のアパートを取り壊して、マンションを建てるってんで工事してるんだよね。んで、音がうるさいって言って、昼過ぎから黒い車がウロチョロしてんだって」
二人が話しているのを聞いて、荒事の気配を感じた庄助は目を輝かせた。
「普通にサバいてきていいんですか?」
「いいよ」
「はいっ、はい! 俺も行きたい!」
割って入って挙手する。二人とも庄助より背が高く、見下ろされる形になる。何言ってんだこいつ、という表情の二人に臆すことなく、庄助は声を張った。
「今後の勉強に! 国枝さんお願いします、迷惑かけませんからっ。書類は明日絶対やりますからっ」
「ダメだ」
ピシャリと言い放ったのは景虎だった。
「素人は連れていけない」
「カゲのケチ!」
庄助は景虎の肩を拳で3度ほど殴った。ペチペチと音がしただけで、景虎は微動だにせず、冷ややかに憤慨する庄助を見ている。
「まあまあ、景虎。いいんじゃないの~?」
のんきな声を国枝が出した。先程広げた花札を箱の中に片付けている。景虎はムッとした顔つきになった。
「いいわけないじゃないですか」
「まあまあ、こういう世界なんだよって教えてあげるのも先輩の仕事でしょ。直行直帰でいいからさ」
「だからって……」
「お願いやん、カゲぇ」
さっきまで肩口をどつき回していた手で、今度は景虎の手を取ると握りしめた。うるうるとした大きな眼で見つめられ、ウッと言葉に詰まった。
景虎は弱かった。それがなぜだかわからないが、庄助にこうして「お願い!」と言われるとつい何でも聞いてやりたくなる。弟分のお願い攻撃に負けて、今月もう2回も高級な焼肉を奢ってしまった。
庄助は何だかよくわからないけど可愛いのだ。顔の作りだとかそれだけが理由ではなく、総合的な愛嬌の値が高い。景虎はパパ活のオッサンの気持ちが少しわかってしまった。
「ぐ……ッ」
景虎が逃げ道を探して振り返ると、国枝とナカバヤシはすでに、奥のテレビの前にパイプ椅子を持ち寄り、何やらごちゃごちゃと相談をしていた。手にはゲーム機のコントローラーを握っている。
「モリオカートやりましょうって」
「だから酔うんだって……梨鉄にしようよ」
役に立たないオッサンたちにただならぬ怒りを覚えながら、景虎は庄助の首根っこを掴んで車に乗せた。
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