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6.郵便で「カワウソ送れ」は全て詐欺②

 実際に庄助は最初、景虎の食生活を目の当たりにして驚いたのだ。  スーパーで買った食パンを焼かずにまるまる食ったり、一日三食菓子パンだけで済ませたり。外食の牛丼はまだいい方で、早死に一直線みたいな食事だった。曰く、食にあまり興味がないそうだ。  別に女房ぶるわけでもないし料理も下手くそだが、誰かと一緒に食事を摂るのが好きな庄助は、遠藤家の台所係を買って出た。 「景虎とはいい友達になれそうか?」 「ともだち……? まあ……はい」  何も知らないナカバヤシから、そんな風に聞かれるのが辛くて濁してしまう。セックスもしたし、昨日もいっぱいチューしてしまったが、はたしてフレンドシップとはなんぞやと考える。  そもそも自分は景虎のことをよく知らない。無口だし何を考えているかよくわからない、友達としてなら選ばないタイプかもしれない。それでも殴られてるのを見て腹が立ったし、人として嫌いかと聞かれると嫌いではない。  物理的にくっつけば気持ちいいし興奮するが、それは恋愛感情なのかと聞かれるとそんなんじゃない。複雑だ。 「あいつには父ちゃんがいなくてな。まだ10歳かそこらの時に、母ちゃんが死んでからはウチの組長に育てられた。けっこう不憫なやつだよ」 「……そうなんですか?」  景虎本人から親がいないことは聞いていたが、庄助はあえて知らないふりをした。そうなんですか? というのは“不憫なやつ”だとナカバヤシが勝手に評することへの疑念も混じっていた。 「学生ン時からこんなヤクザ稼業に足を突っ込んでるから、まともな青春を送れなかったと思う。だからお前が一緒に……」  ナカバヤシは何やら長々とそれっぽいことを言っているが、庄助はその言葉を意識的にふっと遮断して、掃除に集中した。この手の、歳上との説教じみた会話が好きではなかった。庄助はいつも思うのだ。  自分も片親だが、お前らの言うまともな青春ってなんやねんと。  友達と遊んで異性と付き合って勉強してスポーツして泣いて笑って、それこそフィクションの中にしかない、実体のない“セイシュン”やのに。  子供に現実を見ろというその口で、在りし日の美しい夢を押し付けているのはいつも大人たちだと、庄助は思う。ナカバヤシのことは好きだが、ヤクザになっても学校の先生と言うことはそんな変わらんねんな、と少しがっかりした。  片親だからとか、ヤクザの世界に入ったからとか、友達がいなかったからとか。そんなんで他人に可哀想とか言われたくないやろ。 「ヤクザってそんなにあかんのかなぁ。俺は国枝さんもカゲもかっこいいって思うのに……」  庄助はわざとらしく首を傾げた。精一杯の、大人に対する反抗だった。なんで他の人にカゲのことをどうこう言われるの、ちょっとむかつくんやろ。庄助は胸のつっかえを説明できないままでいた。 「俺は!?」  ナカバヤシが焦ったように問いかけるのを、庄助は「もちろんナカバヤシさんもですよ」といたずらっぽく笑い飛ばした。  手の下で、床の大きなゴミを吸い混んだ掃除機が素っ頓狂に唸った。

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