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6.郵便で「カワウソ送れ」は全て詐欺③

 伝票整理にレンタル物品の配送、庄助がその日の全ての業務を終わらせた頃には19時を回っていた。  お先に失礼します、とまばらに事務所に残る兄貴分たちに声をかける。スマホに表示されたQRコードをPCに繋がったスキャナに読み込ませ、退勤の打刻をした。国枝は二日酔いで休むと連絡があり、景虎は午後から出勤してくるなり、別件の用で出ていった。  いつも景虎に配送の時の運転をやってもらっていたから、庄助は慣れない道を一人で運転しなくてはいけなかった。慣れない上に土地勘もない道なのはもちろん、そのうえで組の作業車をぶつけてはいけないというプレッシャーでとびきり疲れた。 「庄助も出る? 晩飯がてら焼き鳥食いに連れてってやろうか」  懲りずにナカバヤシが誘いかけてくる。疲労困憊で空腹だった庄助は、諸手を挙げて喜んだ。 「ほんまに!? ビール飲んでいいですか?」 「2杯までな」  二人して業務用机の上をざっと片付けると、急いで夜の街に繰り出した。まさに飲食店のゴールデンタイムである今の時間は、そこらじゅうのビルから様々な食べ物の匂いが漂ってくる。 「景虎もいれば一緒に連れてきてやったのに」  金はなくても自分より歳下には奢らなくてはならない、ナカバヤシはそういう価値観の持ち主だった。ジェネレーションギャップ的なものを感じるときもあるけど、庄助はやはりナカバヤシのことを嫌いにはなれなかった。 「あいつはいいっすよ別に……」 「もしかして景虎の晩飯作る予定だった? すまんなぁ淋しいオッサンに付き合わせて」  ナカバヤシは、小指のない方の手で鼻の下を掻いた。 「いや、勝手に食うでしょ。そこまで面倒見てられませんて」  本当はスーパーに寄って帰ろうと思っていたのだ。カゲが帰ってくるの何時になるかわからんから、遅くなっても温めて食べられるカレーがええかな。などと、人のための献立を考えてしまっている自分に、庄助は自分で軽くショックを受けた。  いくらなんでも、あんなヘンタイ男相手に甲斐甲斐しすぎる。これでも食っとけって言って半額弁当投げつけるくらいがちょうどいい、と思い直した。 「あ」

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