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6.郵便で「カワウソ送れ」は全て詐欺④

 ふと歩道の向こうからこちらにやってくる、腰の曲がった小さな老人を見つけた。庄助がここしばらく営業に行っている介護施設に、デイサービスの利用のために来所している老婆だ。 「アリマのおばーちゃん!」  名前を呼ばれた老婆は顔を上げると、庄助に向かって手を振った。庄助は実の祖母であるかのように嬉しそうに駆け寄る。生来の人懐っこさのせいか、短い期間ですっかり仲良くなっている。 「庄助ちゃあん、こんばんは。おでかけ?」 「せやで、晩メシ食べに行くねん。アリマのおばーちゃんは? デイサービスから帰るとこ?」  背の低い老婆と目線を合わせるように腰を曲げて、庄助は優しい口調でゆっくり話した。アリマ老人は骨粗鬆症で足を悪くしているものの、受け答えは溌溂としている。歩かないとすぐにボケるからと、運動も兼ねて徒歩とバスで自力で通所しているのだそうだ。 「ううん、ちょっと郵便を出しにねえ。そちら、会社のひと? こんばんはぁ」  後ろにいるナカバヤシに丁寧に頭を下げた老婆は、手に大きめの封筒のようなものを持っている。 「昨日はぎょーさんお菓子もろたから、会社の人にもおすそ分けしたねん。ありがとうな、おばーちゃん。……あ、それ、ポストに入れるん? 出してきたろか?」 「庄助ちゃんは優しいねえ。ありがとう、でも自分で出すわぁ。お金が入ってるからねえ」  アリマはにっこりと笑ったが、庄助とナカバヤシは目を見合わせた。 「お金っ!?」 「そう、30万円を送金したら国からいくらかカンプキン? がもらえるって電話で言われたんだけど、あたし目が悪いから、銀行のATMの画面が見えないって言ったの。そしたら、封書でもいいですよって」 「おい、婆ちゃん。それ詐欺だわ。書留以外で現金は送れねえのよ」  ナカバヤシが割って入る。アリマは見知らぬ厳つい男に、少し警戒したような顔をした。 「でも、少し前に制度が変わったって言ってたのよぉ?」 「いや、変わんねえよ、それが嘘だよ! いいから警察に……」 「おばーちゃん、ここ見える? ちょっと一緒に読んで」  アリマ老人の持っているのは、郵便局などでもらえるパック式の封筒だ。その裏には『現金を送れと言うのは詐欺です』と、注意喚起が赤い文字で書かれていた。老眼のため、封筒から距離を取って読み上げながら、老婆は愕然とした。 「あ、あら……ほんとう。やだ、あたし騙されてたの?」  アリマは口を押さえた。庄助は封筒の宛先を写真に撮ると、ナカバヤシに言った。 「すんませんナカバヤシさん、ちょっと今日は焼き鳥中止で。おばーちゃんのこと頼みます」 「えっ、なんで……」 「ここの住所、けっこう近くみたいなんで一発殴り込みに行ってきます」  庄助の目は怒りと義侠心に燃えていた。

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