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10.きつねのよめいり/ごいっしょねがいます①
縞の身体を叢に隠しながら、彼はゆく。
泥濘を踏みしめて。
二日前に食った肉はとうに腹で溶けて糞になったが、飢えには慣れていた。
はるか遠くで銃声と暴力の慟哭が聞こえる。
皮を剥がれ骨を砕かれることすら、彼には自然の一部であった。
日向で眠るか日陰で眠るか、それだけを選ぶ日々。
世界が雲に覆われたみたいな、土砂降りの雨の日に突然現れたその悪魔は、欲望の形をしていた。
遠い地から来た悪魔は、柔らかくてあったかくて、寝床の匂いがする。
一緒に湿地の泥水を飲んで、一緒に眠るそのうちに、彼は悪魔を愛してしまった。
彼にとって自然の摂理であった、喪失が途端に怖くなる。
水上に目だけを出して潜む鰐に、上空を飛ぶハゲタカに、あるいは地を歩く賢しげな蠍の毒に。
誰かに盗られるくらいなら、噛み潰して土に埋めて隠してしまおうか。
毎晩、隣で眠る悪魔の寝顔に頬を寄せながら、彼は思う。
晴れているのに、叢に雨が降り始める。
ふたりは目を合わせて、木の陰に逃げ込んで笑い合い、じゃれてまた眠る。
いつまでもいっしょにいられたら、どんなに素敵だろう。
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