95 / 170

第二幕 4.よいこにヤクザは難しい②

 庄助は、向田の仕事についてきていた。ここ1週間ほどヤクザのシノギを見せてもらうという体で一緒にいた。  ほぼ毎日のように飯をご馳走してもらい、仕事のついでに遊びも教えてやると言われ、ラウンジやキャバクラなどの女遊びにも同行した。    むっちゃおもろい。ヤクザってやっぱ最高! と、最初は喜色満面の庄助だったが、向田の仕事のやり方を本格的に知るに従って、だんだんと楽しい気持ちが萎れてきた。  人を殴ったり脅したり、それはまあヤクザなのだしそういうこともあるかと思ってはいたが、向田の加害の矛先は、いつも自分より立場の弱い人間たちなのであった。  向田のシノギの主軸は二つ。  一つは、向田が経営するホストクラブやキャバクラの売り上げ。  そしてもう一つは、ホストに入れあげて首の回らなくなった女たちを、組の息のかかった風俗店やアダルトビデオの会社に紹介して仲介料を取る、いわゆる女衒だった。  昔は彼自身もホストをやっていたがトラブルで退職、その後、女を風俗に沈めるテクニックを活かすべく暴力団に入ったという。  向田は自分の経歴を、まるで自慢のように語ってみせた。  弱者を使って金を稼ぐことになんら躊躇いがないどころか、誇らしげにする向田を見て、庄助は気前の良さとは別の評価として、不信感を抱いていた。 「なぁ、庄助。そう嫌そうなカオすんなって。気持ちはわかるが、ヤクザになりたきゃ慣れなきゃいけねえよ。俺達は戦友だろ? なあ」  信号待ちの合間、向田の手のひらが左の肩に触れてくる。サワサワと愛撫するように揉まれ、庄助は身を固くした。 「う~っ……はい……」 「そっちのパーキング、一番近いから停めて」  向田に言われるままに、都会の狭い駐車場に慎重に車の尻を押し込んでゆく。  念願叶ってヤクザになって、やっとそれっぽい仕事に連れてきてもらっているのに。  なのに全然楽しくないのはきっと、通過儀礼で、新入社員がゴールデンウィーク明けに鬱になるような、ごくよくあるものだ。そのうち慣れるに違いない。  庄助はそう自分に言い聞かせて、エンジンを切った。  お互いの仕事の時間の関係で、一緒に暮らしているのにすれ違ってばかりの景虎のことを思った。 (カゲは怒ってるやろか。せやけどヤクザの仕事を教えてくれへんカゲが悪いんやし……)  スマホの通知を見ても、景虎からのメッセージはなかったので、庄助はつまらなさそうに口を尖らせた。 「この現場が終わったらよ、メシ食いに行くか」  シートベルトを外しながら、向田は当然のように言った。庄助は少し戸惑った後頷くと、自分から景虎にメッセージを送った。 『今日もちょっとおそくなるかも。冷蔵庫にあるやつ、何でも食べていいで』  ごめんな、と一度入力した文字を消してから送信すると、車のドアを開けた。

ともだちにシェアしよう!