117 / 170

第二幕 8.義侠心モンスター④

 関わるなと景虎にさっき言われたのに。  自分のこともままならないのに、少し話しただけの女に対して何を言っているのだ。  庄助も、我がことながらそう思う。  ヒカリを救いたいというのは、単純な義侠心だけではない。  誰かに認めてほしいと思う気持ちに承認欲求という名前がついていることを、庄助はつい最近ネットで知った。  庄助は自分の中の義侠心は、それに非常に近いと腑に落ちた。  昔から飼い慣らせず暴走させがちだった“義侠心”の正体を、言語化はできないまでも、庄助はぼんやりと自覚していた。  自覚してなお、やめられない。  憤りや不全感と、それらもまとめて誰かに自分を見て欲しい気持ちは、昔から出来が悪いと言われ続けてきた庄助を突き動かす心臓でもあったからだ。  決して善性だけで動いているのではない。だから自分は良い人間ではない、庄助は自らをそう評しているのだ。   「え~いいの? じゃあさ、今日このままデートしたいな」  ヒカリが子供っぽい笑顔を見せてそう言ったので、庄助は慌てた。 「ででっででデート!?」 「……早坂さんて童貞?」 「どどっどど童貞ちゃうわ!」  二人はクスクスと笑い合った。端から見れば、歳が近く仲の良いカップルにも見えることだろう。  こうして話してみれば、ちょっと変わっているところはあるけれど、ヒカリはいたって普通の女の子だ。  ヒカリのことを、向田の商品だと景虎は言った。が、彼女が人格のある一人の人間だということを、庄助は知ってしまった。  ヒカリが庄助の言葉で頑是なく笑うたびに、庄助はますます何とも言えない気持ちになるのだ。 「んー……わかった」  庄助は、もう氷しか入っていないジュースを音を立てて啜り、腕組みした。 「どこ行きたい? ヒカリちゃん」 「え、うそ。冗談だったんだけど……ほんとに?」  ピンクのシャドウに縁取られた目を見開いて、ヒカリは驚いたように口に手を当てた。 「先に言うとくけど、三つ星フレンチをおごるとかそういうのは無理やで」  金があんまりないからと、オケラよろしく両手を上げて見せると、ヒカリは笑った。 「……いいよ、中学生のデートみたいなことしよ」 「お。ええやん、俺、中学生のデートは得意やねん」  庄助は、紙くずの載ったトレイを持つと立ち上がった。  正直、向田に殴られる覚悟は決まっていないし、景虎や国枝にも雷を落とされるだろう。  けれどなんとなく、今日このままヒカリを捨て置くことはできなかった。

ともだちにシェアしよう!