127 / 168

【番外編】納涼・雀荘に巣食う怪異〜呪いのリャンピン牌〜④*

「ゆぉ……」  庄助は想像する。髪の長い女を。服は濁った色の、白だか灰色だかわからないワンピース。叶わぬ恋を苦にしたのか、それとも上司のパワハラか。目の前の事務所の、背もたれのないローチェア。そこに上って、天井からぶら下がったロープに首を通す。女の乾いた唇から、呪いの言葉が漏れる。  次はお前を呪ってやるからな。死ね死ね死ね死ね、どいつもこいつも馬鹿にしやがって。  女の血走った目が、黒い髪の毛の間から庄助を睨みつける。目を背けることができない。ひび割れた唇の間から乱杭歯を覗かせてげらげらと笑うと、女は躊躇いもせず椅子を蹴った。  ほらそこ、目の前に。スマホのライトが照らす、テーブルの足元に。ばたばたともがく女の足が……。  がたんっ。 「ひお……!」  背後で何かが動いた音がして、庄助は飛び上がった。びっくりしてちょっとちびったかもしれん。首をひねって振り返っても事務所の壁が見えるばかりで、下半身のある店舗側は見えない。 「誰……っ?」  答えるものはいない。けれど、確かに背中の辺りに感じる。視線、気配。  暗くて静かで、闇の中で息を潜めてこちらを伺う異形の、ねっとりとした息遣いがすぐそこにある。 「きゃううっ!?」  不意に冷たいものが、シャツのめくれた腰のあたりに触れる。冷たすぎる。生きてるものの体温じゃない。庄助は過呼吸になりそうなほど動揺して、思わず足をピンと踏ん張った。 「なにっ……ひっ!?」  何かが尻のあたりを探る。柔らかい尻たぶをぐにぐにと確かめるように揉まれて、庄助はひたすら縮こまる。そいつはスライド式のベルトをカチャカチャと器用に外すと、スルスルと庄助のジーンズを下ろしてしまった。 「やっ、やめろ……」  ボクサーパンツの尻に、また冷たい手のようなそれが触れる。肌にフィットする柔らかい生地ごと、尻を撫で回している。時折、ぐっと尻たぶを掴んで開いては、パンツの中で剥き出しになった孔を、つんつんとつついてくる。 「あ、やんっ……」  それだけでなく、尻のあたりですんすんと鼻を鳴らすような音が聞こえる。パンツに包まれた陰囊をふにふにと遊ばれて、思わず動いてしまう太腿に歯を立てられる。  ああ、生者の匂いに釣られた化け物が、俺を食おうとしている。このまま皮膚を破られて、身体の中から食われるんや。そんで、そんで、俺の皮膚を着たそいつが俺に成り代わって明日から生活するねん。  目は宇宙人みたいに結膜の部分まで黒目があって、逆再生の音声みたいな気持ち悪い声で喋るねん。《オハヨう、カゲとラくん》つって……。 「そんなわけあるか! お前カゲやろ! このド変態〜〜っ!」 「バレたか」  よく知った低い声が、悪びれずにそう言うのを聞いて、うっかり泣きそうになった。触れられたときからほんとは気づいていた。生気を感じない冷たい手も、ねちっこい触り方も全部、景虎のやり方は身体が知っている。 「何やってるんだ、こんなところに刺さって」 「刺さりたくて刺さっとんちゃうわ! はあ〜でもほんま、もうっ……死ぬかと思たぁ。カゲ、帰ってなかったんや、よかった……」  安堵で身体の力が抜ける。かといって体重を壁に預けると、腹に尖った部分が刺さりそうで怖い。  尻を触られたが、それくらいのイタズラなら全然許してやろうと思った。なぜなら庄助は、これで万事助かると踏んでいたからだ。  カゲに引っこ抜いてもらって、こちら側のスマホを回収して、家に帰ってシャワー浴びて飯食って……。 「んえ……?」  これからの段取りを考えていると、ふいに尻がひんやりした。パンツを剥ぎ取られて、足首まで下ろされたのがわかった。

ともだちにシェアしよう!