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【番外編】納涼・雀荘に巣食う怪異〜呪いのリャンピン牌〜④*
「ゆぉ……」
庄助は想像する。髪の長い女を。服は濁った色の、白だか灰色だかわからないワンピース。叶わぬ恋を苦にしたのか、それとも上司のパワハラか。目の前の事務所の、背もたれのないローチェア。そこに上って、天井からぶら下がったロープに首を通す。女の乾いた唇から、呪いの言葉が漏れる。
次はお前を呪ってやるからな。死ね死ね死ね死ね、どいつもこいつも馬鹿にしやがって。
女の血走った目が、黒い髪の毛の間から庄助を睨みつける。目を背けることができない。ひび割れた唇の間から乱杭歯を覗かせてげらげらと笑うと、女は躊躇いもせず椅子を蹴った。
ほらそこ、目の前に。スマホのライトが照らす、テーブルの足元に。ばたばたともがく女の足が……。
がたんっ。
「ひお……!」
背後で何かが動いた音がして、庄助は飛び上がった。びっくりしてちょっとちびったかもしれん。首をひねって振り返っても事務所の壁が見えるばかりで、下半身のある店舗側は見えない。
「誰……っ?」
答えるものはいない。けれど、確かに背中の辺りに感じる。視線、気配。
暗くて静かで、闇の中で息を潜めてこちらを伺う異形の、ねっとりとした息遣いがすぐそこにある。
「きゃううっ!?」
不意に冷たいものが、シャツのめくれた腰のあたりに触れる。冷たすぎる。生きてるものの体温じゃない。庄助は過呼吸になりそうなほど動揺して、思わず足をピンと踏ん張った。
「なにっ……ひっ!?」
何かが尻のあたりを探る。柔らかい尻たぶをぐにぐにと確かめるように揉まれて、庄助はひたすら縮こまる。そいつはスライド式のベルトをカチャカチャと器用に外すと、スルスルと庄助のジーンズを下ろしてしまった。
「やっ、やめろ……」
ボクサーパンツの尻に、また冷たい手のようなそれが触れる。肌にフィットする柔らかい生地ごと、尻を撫で回している。時折、ぐっと尻たぶを掴んで開いては、パンツの中で剥き出しになった孔を、つんつんとつついてくる。
「あ、やんっ……」
それだけでなく、尻のあたりですんすんと鼻を鳴らすような音が聞こえる。パンツに包まれた陰囊をふにふにと遊ばれて、思わず動いてしまう太腿に歯を立てられる。
ああ、生者の匂いに釣られた化け物が、俺を食おうとしている。このまま皮膚を破られて、身体の中から食われるんや。そんで、そんで、俺の皮膚を着たそいつが俺に成り代わって明日から生活するねん。
目は宇宙人みたいに結膜の部分まで黒目があって、逆再生の音声みたいな気持ち悪い声で喋るねん。《オハヨう、カゲとラくん》つって……。
「そんなわけあるか! お前カゲやろ! このド変態〜〜っ!」
「バレたか」
よく知った低い声が、悪びれずにそう言うのを聞いて、うっかり泣きそうになった。触れられたときからほんとは気づいていた。生気を感じない冷たい手も、ねちっこい触り方も全部、景虎のやり方は身体が知っている。
「何やってるんだ、こんなところに刺さって」
「刺さりたくて刺さっとんちゃうわ! はあ〜でもほんま、もうっ……死ぬかと思たぁ。カゲ、帰ってなかったんや、よかった……」
安堵で身体の力が抜ける。かといって体重を壁に預けると、腹に尖った部分が刺さりそうで怖い。
尻を触られたが、それくらいのイタズラなら全然許してやろうと思った。なぜなら庄助は、これで万事助かると踏んでいたからだ。
カゲに引っこ抜いてもらって、こちら側のスマホを回収して、家に帰ってシャワー浴びて飯食って……。
「んえ……?」
これからの段取りを考えていると、ふいに尻がひんやりした。パンツを剥ぎ取られて、足首まで下ろされたのがわかった。
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