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【幕間】 男の約束
もしも~し。
俺俺、俺やで、庄助。
ひさしぶり、元気しとった?
あ、そうなん? 忙しいのに、ごめんな。
んーん。えと……あんな、“兄ちゃん”に頼みたいことあって。
俺さ、仕事やめてもーてん。
え……なんでって、職場の先輩と喧嘩して。だってめっちゃネチネチ言うてくるんやもん。ムカつくやん。殴ってもーた。
あー……せやからさ。
兄ちゃん、前に東京に知り合いいてるって言うてたやん。組長の。紹介してほしいねん。
えー! なんであかんの?
俺、かっこええ仕事がええんやもん。
だって、なんか無理やねん……サラリーマンとかそういう、普通の仕事。
オカンが心配するから、俺かて我慢してちゃんとしようって思ってんで。
でも……俺、アホやし、なんか……ビョーテキに、気が短い……。
どうせ気が短いんやったら、そっち方面に活かしたほうがええやんって思ってん。
酒? え。え~飲んでないよ……ちょっとしか。
ひとりで飲んでもつまらんもん。あ、今度兄ちゃんと飲みにいきたい! へへ……。
なぁ~お願いやん、この春からヤクザ1年生になりたいねん。俺が昔から好きやったの知ってるやろ?
なんやっけ、歌舞伎町とかさ~。ああいう……悪のはびこる街の、裏のドンみたいのになって、そんで自分でいっぱい稼げるようになったら、オカンのことハワイに連れて行ったんねん。
あ? 何わろとん!
ちゃうねん、えと……なんやっけ。
極道は、社会に馴染まれへん、どうしようもないニンゲンの受け皿なんやって。
せやからヤクザってきっと、俺みたいなはみ出し者ばっかりなんやろなって……。
乱暴者の中でのし上がる、実力主義の男らしい世界って憧れるやん。
……わかってるよ。
口で言うほど簡単やないってわかってる。
あ……憧れだけなわけないやん!
そんなんやない。
俺かてアホなりにちゃんと考えてる!
……し、もっとちゃんと考えるようにする。
じゃあ、じゃあさ……俺の覚悟、兄ちゃんに証明するにはどうしたらいい?
何でもするわ。
何でもって言うたら何でもや。
せやから、酔っ払ってないって!
まだチューハイのカンカン1本目やで! ストロングやけど……こほん。
ん? おう、わかった。
ええよ! 男に二言はないで、約束する。
逆にそんなんでええんやな?
じゃあ、俺がちゃんとヤクザになれたら、兄ちゃんさ、俺のこと……好きにしていいよ。
あははっ、言い方ヘン? エロ漫画みたい?
やーん、兄ちゃんのエッチ~!
……いや、でもほんまありがと。
俺、兄ちゃんに恥かかせへんように頑張るから。
大物になったら、ゴチでやってるような店の飯、食べにいこな!
あ! あんな、えっと……最後に。
兄ちゃん、忙しいやろけどさ。
東京で会えたら一緒にあそぼ。
えへへ……出張、気を付けて。
じゃあね。
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