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第三幕 十一、ルックバック・ウィズ・ユー③

「あっつ! バチクソ熱あるやん!」 「熱くらい出るときもあるだろう」 「そうかもしらんけどお前……あれ? なんか怪我増えてない?」  景虎の左手の小指を、添え木付きの真新しいサポーターが覆っているのを見つけた。 「ああ、これは……国枝さんと喧嘩して折れた」 「国枝さんと喧嘩して折れた!?」  驚きすぎてつい復唱した。国枝が簡単に骨折させたり関節を外したりしてくるのは知っていたが、目の当たりにするとやはり引いてしまう。 「骨折の吸収熱だ。大した事ない。病院に行ったしすぐ治る」  景虎は、ローテーブルの上の白い藥袋(やくたい)を顎で指した。何種類か痛み止めなどの錠剤が入っているようだ。 「なんでそんな骨折するほど喧嘩すんねん……」 「骨を折るほうがまだ優しい。関節を外されるとずっと癖になるからな。あの人はちゃんと選手生命を考えてるよ」  目を伏せ、自らの小指を見て自嘲気味に笑う景虎を見て、庄助は国枝の所業に腹を立てた。  折るほうが優しいとか、そんなわけない。パワハラやんけイジメやんけ。  あからさまな膨れ面をすると立ち上がり、景虎を見下ろした。 「なんか食った?」 「いや……なにも、特に」 「おかゆとかうどんやったら食える? 食って薬飲んで寝ろ」  そう言うと庄助は踵を返して、どすどすと台所に向かった。冷凍された米をレンジで温める間に、冷蔵庫の中を探っている。景虎はソファで上半身を起こしたまま、忙しなく床を踏むいつもの裸足を見ている。身体中を苛むような痛みが和らぐのを感じた。  景虎はゆっくりと立ち上がり自らも台所に立つと、湯を沸かす庄助の腰を怪我をしていない方の手で抱きしめた。 「あ! いっつも料理中は危ないからあかん言うてるやろ。寝とけって……」 「これでも我慢してる。俺にあれだけ言っておいて、自分はしれっと外泊なんていい度胸だな。一体どんな仕事をしてきたんだ? 白状するまで犯してやろうか」 「おまっ……怪我人のくせにアホか! いいから、あ……っ」  そっぽをむこうとする庄助を捕まえて、景虎は半開きの唇を奪った。  熱かった。景虎の、細胞の一つ一つが熱を放っていた。いつもよりずっと熱くて湿った舌が上顎をくすぐる。濡れた音の淫靡さに戦慄していると、景虎の指がシャツのボタンを弄ってきた。 「ふにゃ……ぁっ」 「あいつの服か? 気に入らない、さっさと脱いでケツの穴の中まで俺に見せろ。何もされてないか調べてやる」  唇に唇を触れさせたまま、景虎は不機嫌そうな声を出した。 「……んんっ、そういうこと言うのやめろって……違う、から、んっ」  言い訳は聞かないとばかりに、口の中から唇から全て舐められ貪られると、庄助はぴくぴくと腰を震わせた。下腹に甘いものが、じわっと広がって堆積してゆく。  このまま無断外泊のお仕置きとばかりに、なりゆきで押し倒されてしまうのだろうか。いや、景虎は骨折していて熱があるのだ、そんないくらなんでも妖怪じゃあるまいし。 「カゲ、待って……わかった! とりあえずメシ食って薬飲んでから! な?」  庄助は出汁の素を入れた鍋に米を投入しながら、景虎の顔と胸をぐいぐいと押し返した。 「誤魔化そうとしてるだろ」 「してないしてない。ほ、ほら。熱下がって元気になったらいっぱい……好きに、していいから……」

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