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第五幕 一、たったひとりのリベリオン②
あれはいつだったか。
半グレに捕まった時も、母親の夢を見ていた気がする。
死ぬかもしれないようなこんな瀬戸際で、無意識に必死にしがみつこうとするのは、故郷にいる母親の姿や声だった。早坂庄助 は、自分のマザコンっぷりがほとほと嫌になった。
トランクの中は、ひどく蒸し暑い。後ろ手に縛られてボクサーパンツ一枚で転がされていると、背中から汗が滑ってゆく感覚がよくわかった。
遮蔽されきった真っ暗な空間で、小石が跳ねてフェンダーに当たるのだろうか、時たま起こる銃声のような鋭い音が、庄助の裸体をビクンと跳ね上げさせた。
ざらついたナイロン製のカーペットに接地した身体の左側は、落ちた汗でベタベタと濡れて、不快なことこの上なかった。
ゆっくりと、重苦しいエンジンの音が止まる。いずこかに到着したということが、暑さと恐怖で萎縮した庄助の頭でも理解できた。
ふと、惨たらしいリンチを受けたナカバヤシの、血膿で膨れた顔を思い出した。自分の末路を見せられたかのようだ。目の裏に彼の顔が浮かぶたび、庄助の血流は加速し、頭痛と吐き気が強まってゆく。
きっと大丈夫、俺が冷静でおらな。
そう頭の中で繰り返していた。
キトンブルー乳児院。
カサイからの呼び出しに応えた庄助は、そこで捕まってしまった。院内で赤子にミルクをあげていた、優しげな女性職員たちは、手慣れた様子で庄助を拘束し身ぐるみを剥ぎ、セダンのトランクに数人がかりで押し込んだ。
「っ……はあ……はあ……」
完全に停車し、重いシャッターが巻き上がる音が眼前の暗闇の中に聞こえた。工具袋や修理キットなど、雑多な荷物に圧迫されながら、庄助は深呼吸を繰り返した。
怖いけど、逃げたくない。
ミズタニって奴に腹立ってしゃーない。
かつて景虎の母を死に追いやった過去の亡霊が、今になって偽名を名乗り、ナカバヤシと通じてまで接触してきている。
どういうつもりかはわからないが、辿り着いたここがミズタニの城の中だというのなら、一発ぶん殴らないと気がすまない。庄助は心に決めていた。
織原組 若頭の|音揃夢一 はあの夜、決して庄助に命令したわけではない。
組織のために役目を果たすと、庄助は自分で誓ったのだ。
足先を荷物の隙間に押し込むようにして身を捩っていると、車のドアが開閉する振動に続き、硬い地面を踏む足音がトランクの前で止まった。庄助は息を呑むと、戒められた後ろ手で、濡れたボクサーパンツを軽く引き上げた。
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