428 / 428

【番外編】しょこら姫と、反社のプリンスさまっ!☆ぼ〜なすとらっく★⑤

 庄助がエレベーターから出ると同時に、三階のユニバーサルインテリアの事務所の扉から、眉間にシワを寄せた向田が出てきた。 「クソがっ……、これじゃあ赤字じゃねえかあのカワウソ野郎」  薄い茶封筒を手に、ユニバーサルインテリアのロゴの入った立て看板へ、小さく蹴りを入れる。すぐそこに庄助がいることも知らずに。 「人の店借り切っといて、な〜にが『とんこつラーメンなんて経費に入るわけないでしょ』だ。ムカつく顔しやがって、だいたい……」 「向田さん」 「おわーっ⁉」  声をかけると、向田は飛び上がった。その驚きっぷりに、逆に庄助も目を丸くする。 「急に話しかけんじゃねえよ、バカ」 「目の前におったやないですか」  先輩ヤクザだというのに生意気に言い返すが、向田の反応は慣れたものだ。向田と庄助の間柄は、それはそれで特殊なものだった。 「昨日はありがとうございました! めっちゃ楽しかったです!」 「わかったわかった、声がでけえわ」  直角に頭を下げた庄助のつむじを見下ろしながら、向田は嫌そうな顔をした。 「ホストのお兄さんたちにもよろしく言っ、えーと……おっしゃる、違うな……あっ。よろしくお伝えください!」  慣れない敬語がなかなか出てこず、四苦八苦する庄助を見ていると、どうも毒気が抜かれてしまう。ボスの国枝に諸経費を差っ引かれた腹いせに、文句の一つでも言ってやろうとしていた出鼻をくじかれ、向田は言った。 「なンだよ、機嫌よさそうじゃねえか」 「へへ。向田さんのおかげですやん」 「自腹でならいつでも遊びに来ていいぜ、しょこら姫」 「姫はもう廃業しましたんで結構です。それに……」  それに? と向田が先を促すと庄助は、まだ暑いのに妙に襟の詰まったシャツの首元をさすった。  ホストクラブでのパーティーは楽しかった。悔しいが、それは事実だ。けれど、わざわざ景虎をハラハラさせてまで遊びに行くのも、なんだか違う。何より、面倒くさいし。 「やっぱ、なんもないです」 「なんだよキメェな。はいはい、じゃあまたキャバの方にバイトしに来いよ。変態にケツ揉まれにな」  すれ違いざま、庄助のジーンズの尻をはたく。庄助はすぐさま尻を押さえ、振り向いた。セクハラ! と叫んだが、向田はすでにニヤニヤと厭な笑みを浮かべながら、エレベーターに吸い込まれてゆく途中だった。 「……ヤキモチ焼きの王子様は一人で十分やからな」  ひとり、取り残された廊下でごちる。  服の下には牙の跡。愛されて重く怠い身体に窓から入り込むぬるい風が心地よかった。  スマホを取り出し、アルバムを開く。昨日のバカ騒ぎの写真を国枝たちにも見せてやろうと、庄助は元気よく、ユニバーサルインテリアの扉を開けた。

ともだちにシェアしよう!