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「また夢のひとときを共に」 少し詫びしさを混じえた目を見せて別れの挨拶をすると、まだ夢心地な目をした客が「またすぐに来るよ」と言って、名残惜しそうに頬にキスをして去って行った。 「⋯⋯⋯」 つい先ほど情事を及んだと嫌でも思わせる残り香が漂う中、おぼつかない足取りで乱れたベッドに座った。 散々客の欲をぶつけられ、節々が痛み、熱が冷めやらない。 今日の仕事は一旦終わりなはずで、愛賀にとっては足りないささいな休憩があるはずだ。 その休憩の間に少しでも痛みも体力も回復すればいいが、問題はこの身体に籠った熱だ。 行為に及んでからさほど時間が経ってないせいでもあるが、今回はそれとは違ったように感じられたし、それに先ほどの客に甘い匂いがすると言われたからだ。 それはオメガの最も特徴的な発情期(ヒート)が近いという合図。 そのせいもあって、いつもよりしつこいぐらい貪られた。 「噛ませてくれ」と苛立ちげに盛りのついた獣のように何度も噛んできた首輪に触れる。 身体目的ではないとはっきり言ってくれた俊我も、誘ってしまうフェロモンをまとった愛賀の前では本能を剥き出しにし、昨日の客のように貪ってくるのだろうか。 俊我だけは違うと思いたい。 気持ちを顔に出すのが苦手らしい彼は、愛賀と話すのが楽しかったと言って、封筒が厚くなるほど入った大金をくれた。 大金をもらっても、この部屋からは容易に出られないため、使い道がないとそう言った意味も含めて申し訳なく感じていた。 そうしたら、愛賀の好きな物を訊いてきたものだから、恐らく愛賀が喜びそうな物をあげたかったが、それが分からなかったためにお金をくれたのだと思うと、俊我が帰ってからももらったお金を眺めては頬を緩ませていた。 ところが、監視に来た『ご主人様』によって呆気なく取り上げられてしまった。 悲しい結果となってしまったが、兎にも角にもそんな不器用な優しさを見せる彼が、ただこの身体を貪りに来る客とは違うと思いたかった。

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