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第19話 真っ黒ワンコに命名

「そんなに怒らなくても」 思わず笑ってしまった。真っ黒ワンコは本っっっ当に嫌なんだろうな、って顔で唸ってる。適当に言ったのがバレたのかなぁ。 しばし考えて、今度はちゃんと真っ黒ワンコに合いそうな名前を考えてみた。 「じゃーお前、真っ黒でかっこいいから、ネロとかどう? どっかの国で黒って意味だよ」 あ、ちょっと考えてる。結局はクロなんだけど、ちょっと捻ってたらいいのかよ。 「……わうっ!」 「お、気に入ったか! んじゃお前、クロ……じゃなくて、ネロね! ネロ、よろしくな!」 「わふっ」 可愛い。 孤児院を出てひとり暮らしを始めてからこっち、家の中がこんなに賑やかだったのなんて初めてだ。でっかいナリして喜怒哀楽が激しい真っ黒ワンコ、僕命名ネロの事を、僕はすっかり気に入っていた。 楽しいけれど、今日は色々あって疲れたし、明日も仕事だ。ふわぁ、というあくびが勝手に口から出てしまう。 「よし、明日も仕事だからそろそろ寝るかぁ」 立ってベッドへ向かったら、ネロも一緒についてくる。 「寂しいのか? 僕はベッドから落ちるほど寝相が悪くないから、傍で寝ても大丈夫だよ」 そう言ってやったのに。 「わふっ!!!」 問答無用、って感じでネロは僕のベッドに乗り上げてくる。 「うわ、ちょっと!」 「わふぅ……」 一瞬で僕の横に長くなって、すぅすぅと寝息を立て始めた。 「嘘だろ……」 ネロの元ご主人様、どんだけ甘やかしてんの!? こんなでっかい犬と寝る時も一緒とか、可愛がり過ぎだろ! 見た事もない元ご主人様に不満が募る。ワンコのコイツですらあんなA級魔物を仕留める事ができるくらいだから、ご主人様はもっと強いんだろう。きっとお金持ちだから、ベッドもでっかいんだろうけど、僕のベッドはシングルなんだよ……! 純粋に狭い! 押してみたけど、こんなにデッカイ毛玉、僕の非力な腕力じゃびくともしない。 仕方なく諦めてネロの横にゴロンと寝転がったら、眠気に抗えなくなってきた。なんせネロときたら暖炉の前で長くなってたからか、毛もフワッフワで気持ちいい。三回くらい洗い倒してやったせいでいい匂いだし。 毛足の長い上質な毛布みたいだ……。 僕は速攻で眠りに落ちた。 *** それから数日が過ぎたわけなんだけど。 ネロはめちゃくちゃ不思議なワンコだった。 喜怒哀楽が激しいかと思いきや、僕が帰ってきた時は信じられないレベルの塩対応だ。片目だけ開けて僕の姿を確認するだけ。フンスと鼻息っぽい音がして、大欠伸しながらまた寝床に頭を沈める。

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