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第21話 愚痴ってみたけど
翌日僕は、仕事場である薬屋で仕事仲間のヤクルさんに盛大に愚痴を吐いていた。
「ほんっとワガママばっかり言うんだよ! 目玉焼き焼けとかスープが飲みたいとか同じものが食いたいとかさぁ、こっちは寝坊して仕事に遅れそうだって焦ってんのに!」
「犬がそんなこと言えるわけないでしょ、ラスクったら面白い事言うなぁ」
ぷりぷりと怒る僕に、ヤクルさんは楽しそうにツッコミを入れてくる。
孤児院のシスターのコネで就職できたここ、ファーマ薬店は、ファーマ師匠とその息子さんであるヤクルさんと僕の三人だけで営む薬屋としてはほどほどの規模の店だ。
師匠もヤクルさんも仕事には厳しいけれど変な無理難題を吹っかけてくるような事もなく、僕みたいな孤児も普通に扱ってくれる誠実で優しい人たちで僕は大好きだ。ヤクルさんの事も兄さんみたいに慕ってる。
師匠には腕もないのに烏滸がましくて僕の夢の事はまだ言えてないんだけど、ヤクルさんにだけは実は一回だけ言ってみた事があるんだよね。
冗談めかして「いつかエリクサーを作れるような薬師になりたいんだ」って言った僕を笑う事もなく、ヤクルさんは「じゃあいっぱい勉強して、お金も貯めなきゃね」って言ってくれた。
夢を掴むには知識とガッツは必須だけど、情報を得るための金と、運を引き寄せる努力も重要なんだよって。
いつもはふざけてるのに妙に真面目な顔で言われたそれを、僕は密かに心の支えにして日々努力してるんだ。
どんな話も楽しそうに聞いてくれるヤクルさんに、僕はついついネロへの愚痴を続けた。
「言うんだって! ていうか態度で出してくるんだよ。ミルク出してやってもフン! ってそっぽ向くし、鼻先で卵ツンツンして見せるし、作ってやんなかったら腹いせみたいに僕のごはん食べちゃうし!」
「あはははは。ホント朝っぱらから何やってんの」
「でしょ!? 朝っぱらからだよ!? マジでもう駄犬だよ駄犬! なんであんなの拾っちゃったんだろ」
「拾ったって言うか押しかけられたっぽいけどねぇ」
「それは間違いない」
「でもそんな所が可愛いんでしょ? ネロを飼いはじめてから、ラスクがイキイキしててお兄さんは嬉しいよ」
「う……そりゃ、ひとりでいるより楽しいけど……でも、アイツ、飼い主と逸れただけかも知れないし」
「うーん、それだけ賢そうな犬なら、飼い主が別にいるならなんとしてでも戻りそうだけどねぇ」
「アイツの行動からして、飼い主がいるなら冒険者だと思うから、今日の帰りにちょっとギルドに寄ってみようと思ってるんだ」
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