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13.伏線

『今年の全日本は五輪への切符がかかった大一番です!』 『ええ! そのため会場の熱気も例年以上! 選手ではない私自身もとても緊張しております!!』 お化粧バリバリの女子アナさんと、やたらと暑苦しい感じの男のスポーツキャスターさんが、きゃっきゃと楽しげに盛り上がっている。 場所はプールサイド。 ウォーミングアップをしている選手達を背景に、競技の説明や取材に対する意気込みを語っていた。 予選はネット配信。 本戦は地上波で放送するらしい。 ちょっと鬱陶しいけど、まぁ仕方がないね。 僕は白いジャージを羽織りながら、黒いスイミングキャップを外した。 下は……このままでいいや。 ジャージ+水着姿のままプールサイドを歩いていく。 結局悩んだ末に、永良(ながら)にあの交渉を持ちかけてみることにした。 どっちみちこのまま黙っていたって、決裂したって結果は同じ。 『永良が主人公を続けて、僕と距離を置き続けるルート』で三年~二十年近く過ごすことになるんだ。 だったら一度ぐらい色気を出したっていいじゃないかと、そう思い至った次第だ。 勿論今すぐに話すわけじゃない。予定通り大会終わりに。 今は軽く……そう。をするために永良を探している。 前回はちょっと喧嘩別れ?みたいな感じになっちゃったから。 「いたいた」 永良だ。大学生や社会人も一緒の大会ということもあって、小柄で童顔な彼はとてもよく目立つ。 そんな彼もまたジャージ+水着姿で立っていた。 ショート丈(太腿にかかるぐらい)のものを選ぶあたりが、何とも彼らしいなと思う。 「……ん? あれ? 何見てんだろ?」 永良の目はダイビングプールの方に向いていた。 そっちではブーメラン型の水着姿の人達が軽やかに宙を舞っている。 確か一番高いところで10メートル。 電柱とかと同じぐらいの高さがあるんだよね。 そんなところから飛び降りるだけでも凄いのに、二回も三回も宙返りをした上で、水しぶきが立たないように入水するんでしょ? とても人間技とは思えない。 あの競技を極めた人の背中には、マジモンの翼が宿るのかもしれない。 「よくやった! バッチリ刺さってたぜ!」 タブレットを手にしたジャージ姿の男の人が選手を褒めてる。 十中八九、コーチだろう。 糸目のゴリマッチョ。凄く爽やかで温かい感じの人だ。 いいな。僕もあんなコーチが良かった。 「っ!」 見過ぎたのかな。 ゴリさんがメッチャいい笑顔で手を振ってきた。 どうしよう。応えた方が良いのかな。 ……なんて内心でみっともなく焦っていたら、永良がすっと頭を下げた。 それを受けてゴリさんが一層爽やかに笑う。 どうやら僕じゃなくて、永良に手を振っていたみたいだ。 「あのコーチと知り合いなの?」 「うぉおぉ!!? ビックリした!!! 声ぐらいかけろよ……っ」 「ごめん。で、どうなの?」 「……知らね。誰かと間違えたんじゃねえの?」 「なら無視すればいいじゃない」 「バカ。そんなん……ワリィだろうが」 まったく……。 君って妙なところで気を遣うよね。 まぁ、そういうところも嫌いじゃないんだけど。 ……っていうか永良、普通に話してくれてる。 僕も何やかんやで普通に話せてるし……うん。 これなら問題なく僕の気持ちを伝えることが出来そうだ。 良かった。良かった。 「つかお前何しに来たんだよ」 「え? えっと……約束覚えてるかなって」 「ああ。今日はちゃんと最後まで付き合う」 「ならいいよ。それじゃ」 「は? それだけ?」 「うん。それだけ」 永良はかなり驚いたような表情を浮かべた後で、どこか不貞腐れたような声で「そうかよ」と言った。 僕にはその意図が分からなくて問いかけようとした。 けど、永良はそんな隙すら与えずに「じゃあな」と言ってすたすたと去って行ってしまう。 まぁ、最後は何か微妙な感じになっちゃったけどウォーミングアップトークとしてはまずまずだったよね。 僕はそう無理矢理区切りを付けてレースの準備を進めていった。 ――その後、大会は滞りなく進行。 永良は惜しくも予選敗退、僕は優勝して五輪への切符を手にしたのだった。

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