12 / 20

12.思ってたんと違う

「さっ、行くよ」 「つかお前、練習は……?」 「サボって来たに決まってるでしょ」 「はぁっ!!!?」 永良(ながら)の目が大きく見開く。 口もあんぐり開いてて……何だかハムスターのミームを思い出すな。 ふふっ、と笑いながらパシャっと撮影。 そうしたら永良がガウガウ吠え出した。 ハムスターになったり仔犬になったり……。 ホント見てて飽きないな。 「サボっただ!? 何やってんだよ、このバカッ!!!」 「うるさいな……」 「お前な、ちったぁ的場(まとば)さんの気持ちも汲んでやれよ。あの人は本気でお前のこと、一番にしようとしてんだ――」 「ちょっと待って。君、もしかしてコーチに絡まれたの?」 「ああ。例の大会の一件でな」 「……何で?」 「傍から見ればお前は被害者なんだ。当然だろ」 永良が言っているのは、『春の中学生大会』でした『ざまあ宣言』のことだ。 けど、彼が言うほど大事にはなっていない。 もっと言うと、完全にスルーされているような状態だ。 あまりにも力の差がありすぎて、誰もまともに取り合わなかったんだ。 それはコーチも同じだったんだけど……そう。 裏で永良に接触してたんだね。 「嫌なこと言われなかった?」 「バカ。メッチャ感謝されたわ。俺なんかに頭まで下げて」 「まさか……話したの? あの日のこと」 「当たり前だろ。的場さんはお前のコーチなんだから」 「サイアク……」 普通言う? コーチに弱みを握られたようで気分が悪い。 「とにかく、今からでもいいから練習行け。特急乗りゃ、ギリ間に合うだろ」 「ヤダ」 「なら絶交だ」 「それは……ずるいよ」 「ほらっ、とっとと行け」 永良が歩き出す。 話は終わりだと言わんばかりに。 僕は堪らずもう一度「サイアク」と呟いたけど、それでも永良は止まらない。 「それからもうここには来るな」 「オフの日でも?」 「こんなとこに来る暇あったら、しっかりカラダ休ませろ」 気遣ってくれてるようでいて、突き離されているような気がした。 こんなにも頑なで大丈夫なのかな? あの交渉が成立するのか、本気で不安になってきた。 ――主人公を降りて、僕と仲良くするのか。 ――主人公を続けて、僕と距離を置き続けるのか。 今の永良なら後者を選ぶような……そんな気がしてる。 絶交カードを切るのにも、まるで躊躇が無かったから。 ……ホントに君が何を考えているのか、まるで分からない。 八年近くずっと僕のことを気にかけて、今は僕のためにこんなにも一生懸命頑張ってくれているのに――どうして君は僕を求めてくれないんだろう。 「話なら、年明けの全日本の時にでも聞いてやるから」 「……四か月も先だね」 「そうだな」 「…………」 「…………」 「……分かった。ありがと」 永良の背中がガラス戸の向こうに消えていく。 一人残された僕は溜息一つに駅に向かった。 帰りのモノレールは、僕に『さっさと帰れ』と言わんばかりに直ぐに来た。 永良のスクールが遠ざかっていく。 永良と行くはずだったモックも遠く彼方へ。 その二つが見えなくなった後で、僕はヘッドホンをした。 お気に入りのアニソンを再生する。 だけど、僕の気分は僅かも上がることはなかった。

ともだちにシェアしよう!