11 / 13

11.凸る

翌日。僕は午後の授業をサボって、永良(ながら)が所属しているスイミングクラブに向かった。 電車を乗り換えること三回。 特急電車も駆使して、何とか一時間ほどで辿り着くことが出来た。 駅前には大きなスーパーが二件。 幹線道路沿いには、有名な飲食チェーンがずらりと立ち並んでいる。 かと思えば、クラブの裏手には大きな畑が広がっていたりしてて。 のどかだけど、ちゃんと便利な街だ。 永良のやつ、結構いいところに住んでるじゃん。 「……三時か」 永良と同じ中学&学年の子のSNSの情報が正しければ、彼はまだ授業中。 三時半ごろに授業を終えて、ここに着くのは四時ぐらいになるだろう。 「完璧」 ふんっと鼻を荒げて、ぐんっと伸びをした。 今日の僕は、早退して来たこともあって制服姿だ。 深緑色のブレザー&ズボンに白のYシャツ。セーターは紺色。 金色がかったシルバーのネクタイを締めて、左のラペルには学年章入りの小さなピンバッチを付けている。 かなり主張強めな制服だ。 街の中では目立って仕方がないけど、面倒なのでもう開き直ってしまっている。 「お~、すごい」 頭上をゆったりと走るモノレールを撮ったりして、のんびりと永良を待つ。 駅の向かい側にはモックが見えた。 永良が来たらあそこで話そうかな。 「……へへっ、永良とモックか」 目的を忘れて妄想に耽る。 『僕、ピクルス苦手なんだよね』 『なら、俺が食べてやるよ!』 永良の小さな指が、僕のバーガーからピクルスを抜き取る。 『おわっ、ケチャップ付いた』 そう言って指に付いたケチャップを、猫みたいにペロッと舐め取る。 そんな姿を僕に見られていることに気付いた永良は、『何だよ』ってむっとするけど……直ぐにふふっと、笑い出す。鼻を押さえながら照れ臭そうに。 僕はそんな永良の姿を、バッチリスマホに収めるんだ。 そうしたら、永良は『や~め~ろ~よ~』なんて言いながら、僕に向かって手を伸ばしてきて。 「ウムウム」 なかなか友達っぽいんじゃないか? よし。ちゃんと撮って待ち受けにしよう。 「イズミくん?」 いつの間にやら、僕の足元にはショタっ子の姿があった。 興味津々といった具合に見上げてきている。 褐色肌のちょっと内気な感じの子だ。 僕はしゃがみ込んで、その子と目線を合わせる。 「うん。そうだよ」 短く答えると、ショタ君の瞳がぱぁーっと輝き出した。 可愛い。子供は無邪気でいいな。 「サインちょうだい!」 「ちょっ!? ごめんなさいね~」 ショタ君の母親と思われるおばさんが駆け寄って来た。 僕は首を左右に振って、ショタ君に向き直る。 「いいよ。どこにしようか」 「やった! えっとね、えっと……会員証に!」 「分かった」 僕はリュックの中から油性ペンを取り出した。 これもコーチの言いつけだ。 出掛ける時は、常に油性ペンを持ち歩いている。 『いいか? お前はもうなんだ。しっかり肝に銘じとけ』 そう言ってコーチは、箱買いした油性ペンを押し付けてきた。 もう三年前になるか。三十本あったペンはもう十本もない。 「アタシも!」 「俺にも、お願いしてもいいですか……?」 「わぁ……! 本物の厳巳(いずみ)君だ♡」 「やっば超カッコイイ♡♡」 気付けば、クラブの他の生徒さんや親御さんに囲われていた。 子供限定、とはいかず親御さん達にも握手をしたり、サイン(筆記体で書いただけ)をしたり、簡単なインタビューに答えたりしていく。 ぶっちゃけると、ちょっと前までこの手の人達のことは苦手だった。 絶対王者、金メダル、伝説……なんてケバケバしたワードをふんだんに使って、主人公(ヒーロー)の存在を否定してくるから。 でも、今は全然気にならない。 永良のお陰だ。僕はもう君の特別になれればそれでいい。 「いっ、厳巳!?」 来た。小さく息をついて永良と向き直る。 今日の彼は制服姿だった。 紺のブレザーに、灰色のズボン、ネクタイは赤で、ブレザーの中には灰色のフード付きのパーカーを着ていた。 校則、緩いんだな。羨ましい。 我喜屋(がきや)君は一緒じゃないみたいだ。 お休みなのか、それとも永良が先に来たのかな。 何にせよ助かる。彼がいるとややこしくなるから。 「何でこんなとこに!?」 「君、話の途中で逃げたでしょ」 「~~っ、だからって押しかけてくる奴があるか!」 僕の周囲を囲っていた人達が「それじゃ~」と、ぎこちなく笑いながら去っていく。 気を遣ってくれたんだろう。 やっぱり、ここで話すと迷惑になるな。 予定通りモックに行こう。

ともだちにシェアしよう!