11 / 20

11.凸る

翌日。永良(ながら)の地元に向かった。 「ふ~ん。ここが永良の……」 のどかさと暮らしやすさが共存しているような街だ。 駅の向こうには小山、スクールの裏手には茶畑が広がっている一方で、駅前には大きなスーパーが二軒、幹線道路沿いには有名チェーンがずらりと建ち並んでいる。 永良のヤツ、結構いいところに住んでるじゃん。 「……三時か」 永良と同じ中学&学年の子のSNSの情報が正しければ、今日の授業は六限目まで。 ここに着くのはたぶん四時ぐらいになるだろう。 「完璧」 スクールの前に陣取った僕は、ふんっと鼻を鳴らして伸びをした。 今日の僕は早退してきたこともあって制服姿だ。 深緑色のブレザーに黒のズボン。 Yシャツは白でセーターは紺色。 首には金×白黒のストライプのネクタイを締めている。 ……とまぁ、文字だけでも分かる通りかなり主張強めな制服だ。 街中では目立って仕方がないけど、面倒なのでもう気にしないことにしている。 「お~、すごい」 頭上をゆったりと走るモノレールを撮っていると、駅の向かいにモックがあることに気付いた。 永良が来たらあそこで話そうかな。 「……へへっ、永良とモックか」 目的を忘れて妄想に耽る。 『僕、ピクルス苦手なんだよね』 『なら俺が食べてやるよ!』 永良の小さな指がピクルスを抜き取る。 『おわっ、ケチャップ付いた』 そう言って指に付いたケチャップを赤い舌で舐め取る。 『……何だよ。行儀悪いって?』 『別に?』 むっとする永良。けど、直ぐに『ぐははっ!』と声を上げて笑い出した。 大口を開けて、凄く楽しそうに。 ――パシャ。 僕はそんな永良の姿をスマホに収めた。 そうしたら永良は『や~め~ろ~よ~』なんて言いながら、僕に向かって手を伸ばしてきて――。 「ウムウム」 なかなか友達っぽいんじゃないか? よし。ちゃんと撮って待ち受けにしよう。 「イズミくん?」 いつの間にやら、僕の足元にはショタっ子の姿があった。 褐色肌のちょっと内気な感じの子だ。 僕はしゃがみ込んで、その子と目線を合わせる。 「うん。そうだよ」 短く答えると、ショタ君の瞳がぱぁーっと輝き出した。 可愛い。子供は無邪気でいいな。 「サインちょうだい!」 「ちょっ!? ごめんなさいね~」 ショタ君の母親と思われるおばさんが駆け寄って来た。 僕は「いいえ」と首を左右に振って、ショタ君に向き直る。 「いいよ。どこにしようか」 「やった! えっとね、えっと……会員証に!」 「分かった」 僕はリュックの中から油性ペンを取り出した。 これもまたコーチの言いつけだ。 出掛ける時は必ず油性ペンを持ち歩くようにしている。 『いいか? お前はもうなんだ。しっかり肝に銘じとけ』 そう言ってコーチは箱買いした油性ペンを押し付けてきた。 もう三年前になるかな。 三十本もあったペンはもう十本もない。 「アタシも!」 「俺にも、お願いしてもいいですか……?」 「わぁ……! 本物の厳巳(いずみ)君だ♡」 「やっばぁ~、超カッコイイ♡♡」 気付けば僕の周囲は人で溢れ返っていた。 子供限定、とはいかず親御さん達にも握手をしたり、サイン(筆記体で書いただけ)をしたり、簡単なインタビューにも答えたりしていく。 ぶっちゃけると、ちょっと前まではこの手の人達のことが凄く苦手だった。 絶対王者、金メダル、伝説……そんなケバケバしたワードをふんだんに使って、主人公の存在を否定してくるから。 でも、今は全然気にならない。 永良のお陰だ。 ――僕はもう君の特別になれればそれでいい。 「いっ、厳巳!?」 来た。小さく息をついて振り返る。 永良もまた制服姿だった。 ブレザーは紺色で、ズボンの色は黒。 Yシャツとセーターの代わりに、灰色のフード付きのパーカーを着ている。 ネクタイはしていないみたいだ。 校則、緩いんだね。羨ましいな。 我喜屋(がきや)君は……一緒じゃないみたいだ。 お休みなのか、それとも永良が先に来たのかな。 何にせよ助かる。彼がいるとややこしくなるから。 「何でこんなとこに!?」 「話したいことがあって来たんだ」 「~~っ、だからって押しかけてくる奴があるか!」 「君が連絡先を教えてくれないのが悪いんでしょ」 「うぐっ!? そりゃ……そうだけどよ……」 周囲の人達が「それじゃ~」と遠慮がちに挨拶をして去っていく。 言うまでもなく気を遣ってくれたんだろう。 やっぱりここで話すと迷惑になるな。 予定通りモックに行こう。

ともだちにシェアしよう!