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10.君のためなら、僕は無双系主人公にだってなってやる

「永良(ながら)! 待って!!」 「っ!!? 付いてくんな、バカ!!」 桜紅葉が舞い散る中を全速力で駆けていく。 幸いなことに人の姿はまばらだ。 けど、僕の心の中は色んな感情でもみくちゃになっていた。 主人公だから僕とは馴れ合わない? それってつまり(ざまあを達成してもしなくても)現役の間は仲良くしないってこと? 「何年かかると思ってるのさ」 僕らはまだ15歳。 高校卒業のタイミングで引退するなら三年、就職を機に引退するなら七年先ということになる。 ……無理。待てない。 そんなに待たなきゃいけないなら、もうざまあなんていらない。 「……えっ?」 僕は思わず笑ってしまった。 我ながらブレブレだな。 「うおおぉぉおおおお!!!!」 「すっご……!」 永良が加速し出した。 速い。みるみるうちに離れていく。 まるで距離が縮まらない。 「永良!!!」 『ドアが閉まります。ご注意ください』 僕が階段を降り切るのと同時に、電車のドアが閉まってしまった。 永良は電車の中だ。こっちに背中を向けた状態で、激しく咳込んでいる。 表情はまったく見て取れない。 「はぁ……はぁ……」 永良の背中が電車と共に遠ざかっていく。 ホームには数人の降車客と、荒く息をつく僕だけが残された。 「まぁ、……あの脚力だもんね。速くて、当然か……」 あの分だと、100メートル12秒……下手したら、11秒台もありそうだ。 陸上に行っていたら、間違いなくスター選手になっていただろう。 ってか、あのレベルならスカウトが来ていない方がおかしい。 もしかして……蹴ってたのかな? 僕のことが心配で。 「ふっ」と小さく笑って、やれやれと首を左右に振る。 「はぁ……はぁ……ふーーーーーっ……」 深く息をつきながらベンチに腰掛ける。 心拍数が落ち着いていくのにつれて、頭も大分冷えてきた。 ……うん。よし。 やっぱり妥協しよう。 ――主人公から降りたいようなら降りてもいい。 ――その代わり僕と仲良くして。 そう持ちかけるんだ。 永良は元々気乗りしていなかったみたいだし、悪い話じゃないだろう。 僕の方は……大丈夫だ。 永良を繋ぎ止める、その目的が達成出来るのなら喜んで『無双系主人公』になろう。 「そうと決まればカチコミだね」 幸いなことに永良の所属先は公表されている。 まずはスイミングスクールの方から行ってみようかな。 善は急げで明日の学校帰りにでも。 「逃がさないよ、永良」 何かヤンホモみたい。 内心でノリツッコミしつつ、僕は笑った。 誰もいない地下鉄のホーム。 ひんやりとした外気が、今の僕にはとても心地良かった。

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