15 / 20

15.報酬は君の友情(仮)

「最速を目指すよ」 そう宣言すると、永良(ながら)は皮肉混じりに笑った。 僕の狙いを察してのことだろう。 「なら俺は、お役目ごめんってことでいいか?」 「それ、分かってて言ってるでしょ?」 「…………」 「ギラギラした僕に戻るから、君は脱オタして僕の親友になってよ」 永良は小さく舌打ちをして顔を俯かせた。 照れ隠しではなさそう。何って言うか……マジだ。 怒ってるのか、悲しんでるのか、それは分からないけど。 喜んでくれるものとばかり思っていたから、この反応はちょっと困る。 「趣旨変わってんじゃねえか」 呆れたように永良が笑う。 そんな彼を前にして、僕は心底ほっとした。 ああ、いつもの永良だってそう思えて。 「それだけ僕は必死だってことだよ」 「巻き込まれるこっちはクソ迷惑だけどな」 「それはごめん。だけど、そのぶん君を幸せにしてみせるから」 「はっ……」 ツッコミ待ちだったんだけどな。 プロポーズかよ、みたいな。 永良はふぅーっと息をついて、薄暗い空を仰いだ。 僕は何だか居心地が悪くて、すっと目を伏せる。 「最速になったら、それで終わりか?」 「うん。終わりにして、君と仲良くしたい」 「ダメだ。そのままずーっと、体が許す限り泳ぎ続けろ」 「ひど。何それ」 「今度はお前が俺のために泳ぐんだ」 君のために泳ぐ……か。 条件によっては、それも悪くないかも。 「見返りは?」 「俺の友情(仮)」 「(仮)って……」 「俺だって人間なんだ。相容れないヤツだっている」 「それって、僕とは親友はおろか友達にすらなれないかもしれないってこと?」 「努力はするがな」 『とか何とか言って、仲良くしてくれるんでしょ?』なんて、思えちゃうぐらいには心に余裕がある。 何やかんやで永良は僕に甘いから。 「で、どうなんだよ。乗るのか、乗らねえのか」 「乗るよ」 「よし。じゃ、もう正式に『ざまあ』はいらねえってことでいいな?」 「うん。今までありがとう。君のお陰でギラギラな僕を取り戻せたよ」 「まだ分かんねえだろーが」 「確定だよ。僕は君と親友になれるなら何だってする」 「……へいへい」 永良は返事をするなり、跳ね起きるようにして椅子から立ち上がった。 相変わらず身軽だな。 「話は済んだな。帰るぞ」 「どっか寄り道してこーよ」 「却下だ。さっさと帰ってカラダ休めろ」 取り付く島もない。 でも、さっきよりは穏やかというか、機嫌が良くなったような気がする。 ワンチャン食らいついてもいいだろう。 「じゃあ、せめて途中まで一緒に帰ろう」 「ホームまでな」 「いや、古宿で乗り換えるまでは一緒だよ――」 「嘘つけ。初手から逆方向だろうが」 ……ん??? 「もしかして、君……僕の最寄り駅まで知ってるの?」 「っ!!!??」 「ふーん? そう。君、僕のオタクじゃなくてストーカーだったの」 「ちっ、ちげーよ! テメエの最寄りを知ったのは、スレでたまたまで――」 「僕のスレ? そんなの見てるの?」 「うぐっ!?」 「まさかとは思うけどさ、君……アンチスレにまでわざわざ足を運んで、擁護コメなんか書いたりしてないよね?」 「して、ねえ……」 僕の口から、それはそれは大きな溜息が零れた。 そのままやれやれと首を左右に振って、天を仰ぐ。 「脱オタまでの道は険しそうだね」 「だから、ンなバカみてえなことしてねえって! つーか、さっきから何だよ! 人をオタク、オタクって!! そもそも俺は、テメエのオタクなんかじゃねえぞ!!!」 「はいはい」 永良と並んで歩き出す。 駅に向かってゆっくり、ゆっくりと。 君との友情はたぶんこの歩みと同じように、ゆっくり、ゆっくりと育まれていくものなんだろうな。 正直言うと物凄くじれったい。 だけど、こうして君が隣にいてくれるのなら、それも悪くないのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!