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14.写真

大会終了後、僕らは馴染みの金木犀の園で待ち合わせた。 春先の金木犀の葉は黄緑色で、所々に赤茶色の新芽が芽吹いている。 あの日、永良(ながら)と出会った時もこんな感じだった。 もう一年も経つのかと、しみじみと思う。 「なぁ、おい。これ見ろよ」 永良は僕と合流するなりスマホを見せてきた。 ニュースの切り抜きみたいだ。 プールサイドで、僕と永良が楽し気に話をしている。 ……永良は後ろ姿だけど(憤怒)。 『厳巳(いずみ)選手は御覧の通り、とてもリラックスした状態で大会にのぞまれていたようです』 『オリンピック出場がかかったあの大一番で! いや~、頼もしいですね~』 画面の中の僕が、永良の顔を覗き込んでケラケラと笑っている。 我ながらとても楽しそうだ。 「お前のこの姿、万バズしてんぞ。やっぱイケメンは得だな」 「不本意」 「あ? 何でだよ?」 「あれは君と僕の笑顔だよ。他の誰のものでもない」 「っ、……かっ、かてーこと言ってんじゃねえよ! アスリートだって、好かれるに越したことねえんだからさ――っ!」 一瞬の隙をついて、永良のスマホのスタートボタンを連打した。 そうして表示させたのは待ち受けだ。 僕が設定されている――かと思えば、にゃんこだった。 真っ黒でもふもふな猫が、生活感溢れる青い毛布に包まって寝ている。 「ばっ! 何してんだよ」 「待ち受けチェック」 「~~っ、この変態!!」 「ねえ、ホーム画面は? 見せて」 「誰が見せるか!!!」 「お願い。僕の待ち受けも見せてあげるから」 「はっ、……はぁ? ンなもん1ミリも興味な――っ!!!???」 永良は僕のスマホの画面を見るなり驚愕した。 それもそのはず。僕の待ち受けは永良だ。 制服姿の彼が、目を真ん丸にして口をぽかーんと開けている。 言わずもがな、これは凸った日に撮った写真だ。 今も変わらずとても気に入っている。 「いつの間に!? じゃなくて、何で俺だ!!?」 「可愛かったから」 「~~っ、バカ!!! ごっ、誤解されたらどうすんだよ!!」 「誤解?」 「っ! ……何でもねえ」 「で、君のは?」 永良は大きく舌打ちをしつつ、渋々といった具合にホーム画面を見せてきた。 どうやらお友達と撮った写真みたいだ。 写っているのは……五人以上。中には我喜屋(がきや)君の姿もあった。 全員寝巻き姿で、永良を中心にもみくちゃになって写ってる。 大方、修学旅行の時にでも撮った写真なんだろう。 少し……いや、大分むっとした。 永良、やっぱ人気者なんだな。 「何、怒ってんだよ」 「……別に」 永良がふっと笑う。 何だか小バカにされてるみたいで、ますます腹が立った。 「……僕とも撮ってよ」 「何度も言わせんな。俺はお前をざまあさせる男だ。お前とはぜってー馴れ合わね――っ! おい!!」 永良の肩を抱いて、無理矢理に画角に押し込む。 よし。これでいいや。 パシャシャシャシャッ……と、連射モードで撮りまくっていく。 「~~っ、離せこの――あがっ!!?」 逃げようとする永良の手を掴んで、力任せに引っ張った。 彼はなすすべもなく引き戻されて――座面にドシンっと尻餅をつく。 「~~痛っ、テメエ!!!」 ぎゃうぎゃう吠える彼を他所に、戦利品を確認する。 ふふっ、これじゃ君……なろー系主人公じゃなくて、なろー系ヒロインだね。 永良はハグされた状態で、じっと僕のことを見ていた。 突然のことで驚いたのか、その顔は赤く色付き、瞳はうっすらと潤んでいる。 乙女ティック永良。これはこれで可愛いかも。 よし。『ポカーン永良』はホーム画面にして、『乙女ティック永良』を待ち受けにしよう。 「おい! 消せよ」 「あ~あ、残念。な~んも写ってないや」 「は? まっ、マジ?」 僕は素早く偽造工作をした。 ブレブレの写真を十枚ほど複製。 永良が写っている写真は、ゴミ箱に入れたものも含めて全部消した。 バックアップはもう取ってあるから問題はない。 ふふっ、完璧完璧♪ 「ちょっ、貸せ!!」 「いいよ。好きなだけチェックして」 永良はう~と唸りながら、僕のスマホを操作していく。 何だか擽ったいな。別に見られて困るようなものなんてないけど。 「……マジでブレブレな写真しかねえ」 「秘密フォルダも見た?」 「当たり前だろ。ったく、男であそこカラにしてるヤツなんざ初めて見たぜ」 「ふふっ、やっぱ知ってるんだ? 僕の誕生日」 「っ!!!! たっ、たまたまだ!! たまたま!! とっ、とにかくスマホは話終わるまで預かっておくからな」 「はーい」 良かった。バックアップまでは頭が回らなかったみたいだ。 まぁ、気付いたところでそっちのパスは絶対に教えないけど。 「じゃ、ほらさっさと話せよ」 もう少し場をあたためたいところではあるけど、仕方がない。 永良の気が変わらないうちにきちんと話しておこう。 僕は小さく咳払いをして、彼に向き直る。

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