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第6話

バレンティンが帰ってきたのはそれから小一時間もした頃だった。  少しうとうとしていたヒイロは、エルセイウに起こされて白いガウンのようなものを着せられた。 「今から風呂に入って、それからリムのところへ向かうぞ。待ってるから入ってこい」  めんどくせーと思いながら、渡された服を持って浴室へ入る。  ゆっくりも入っていられないんだろうなと、いちおう湯船には浸かったが、すぐにでて身体を洗いそして渡された服に袖を通した。  絹っぽい感触のしゃらしゃらした感触のガウンである。  ガウンの紐をキュッと縛り、その中、素肌に充てるようにタオルに包んだ包みを外から言えないように忍ばせて中からベルトに挟んだ。  大ぶりのナイフである。  半月前に決意したことが、今目の前になってぐずついてきた。怖い… だったら血を吸われて仲間になっちゃう方がどんなに楽か…まで思うが、それもできない…。  人間ならば誰もが恐怖に感じること… ヒイロは自ら命を断つ決意をしていたのだ。 「元気そうだな、リム」  イフリムの部屋へ連れてこられて、ヒイロは満月でとりあえず元気そうな姿を見て微笑んだ。 「おかげさまでね…」  イフリムも、相変わらず綺麗な銀糸の髪を揺らして人懐っこい顔で笑い返してきたが、どこか影のある笑みである。 「ヒイロ…本当にいいのか…?」  今更ながらに、親友と今日別れたヒイロがどれほど胸を痛めているか、この場所でほぼ永遠とも言える時間を過ごしてゆく覚悟とかをイフリムは心配だった。  半月の間、全く話をしなかったわけではなかったけれど、その間もどこか元気がなくていたヒイロを気にしてもいたのだ。 「ああ、いいぜ。リムに血をやるよ。しかしすげえ格好だな」  ベッドに腰掛けているイフリムは、首の中頃まで高く肌に沿うブラウスをキッチリ留められ、黒いスラックス、そしてその上から縁を金糸で飾られた長いローブを着ている。 「バレンティンに着せられたんだけどさ…ちょっとね」  イフリムも苦笑して自分の姿を見回した。 「まあ、似合ってるけどね」  イフリムの心配を解消する為なのか、軽い話を持ち出してヒイロはイフリムの前に立つ。  エルセイウとバレンティンは、ヒイロをこの部屋に連れてきた時点で部屋を辞していた。  イフリムにここに連れてこられて約半月とちょっと。  あの時も多分ギリギリの状態だったのか、それから数日後から寝込むようになっていたイフリムは、今日までの半月の間に随分をやつれてしまっていた。  イフリムがもつ力は、持っているだけで維持する体力を削るのか、禄に血も汲めない日々の中その状態を毎月繰り返すという、月の満ち欠けに頼った生活が続いているとバレンティンから聞いた。  でも自分の血を組めば、イフリムはもうそんな生活をしなくて済む、とヒイロは聞かされている。 「こんなに痩せちゃって…毎月こんなやつれんの?」 「ん…まあ仕方ないよ。これでも配下の血は少しずつもらってるし、命があるだけ喜ばしいことさ」 「吸血鬼…ってあえて呼ぶけどさ、吸血鬼も死ぬことあるのか?」 「バレンティ(レ ン)ンやエルセイ(セ イ)ウたち貴族階級はほぼ永遠の命なんだけど、僕の一族は不死でも歳は取ってしまうんだ。そうだな…一般貴族階級は人間の100分の1くらいのスピードで歳をとる感じだけど、僕は人間の半分のスピードくらいかな。感覚だから正確じゃないけどね。そんなだから僕の一族は一定期間で代替わりの儀式をするんだよ」  自分の命を終わらせる間際に、また面白い話を聞かせてもらったとヒイロは嬉しい気持ちになった。 「それで儀式の後にね、血や食事を一切絶って静かに命を終えるんだ。最後には棺に入ってその胸に形だけの十字架を抱いて、ある場所に埋められるんだって。そこがどこなのか、僕も知らないんだけどね」 「なんで十字架を?」 「神の子である人間をしもべたちが悪戯に食い散らかしたり、僕たちも図らずも…なんていう時もある。その贖罪を一身に背負って行くっていう意味があるんだって、バレンティンが言ってた。祈りを捧げた十字架じゃなければ僕たちは触れるから、その時の王のお付きのものがどこかからもらってくるらしいんだ。レンとセイは僕の一族の付人をずっとやっていて、もう3代もそうやって見送ってきているよ」  ヒイロは驚いた。バレンティンとエルセイウは…本当に長い時を生き、「その時」には仕えた主人との別れを繰り返してきているのか… 「レンはさ…いずれ僕にその時が来たら一緒に逝くって言ってくれてるんだ。そうしたらセイが1人になっちゃうな、って思ってたらヒイロが来てくれた」  イフリムが無邪気に笑った。  この結界の中…永遠に1人で新たな王を育ててゆくのか…ヒイロの決意も揺らぐ。  しかし、新たな王で気づくが 「そう言えば、リムの次の王になる子供って…?」 「僕は、僕がどこから来たのかわかんない。気づいた時にはレンとセイが面倒見てくれてたし」  その辺気になる…しかしわかりようもないな…とヒイロは無邪気なリムに微笑んだ。 「難しいんだな、リムたちの世界のことって」 「あまり考えないようにしてる。だって今は楽しいから」 「そっか…俺もね『今は』楽しいよ。なんかエルセイウが俺に構ってくれるし、リムにだけ言うけど、俺もエルセイウが好きだしね」  サラッとイフリムに自分の気持ちを打ち明けた。 「うん、気づいてた。ヒイロ最初の頃よりセイに向ける顔優しいもんね」  気づいてはいなかった。自分そんな態度だったのかと気付かされ、少しはずかしい。 「だから一緒にいさせてあげたいよ。一緒にいようね。みんなでさ」  イフリムがヒイロの両腕をそっと掴んで立ち上がった。 「噛まないから痛くはないよ。ほんの少し吸うだけ。大丈夫?怖くないから」  正面に立って、ヒイロの様子を伺ってくれる。  どこまでも優しいイフリム。きっと『大丈夫。血をあげる』と言わなければこの短い儀式さえ行なわないだろう。 「うん…でもね…一緒にいたい気持ちはいっぱいになっちゃったけど…俺はここで生きていくわけにはいかないんだ」 「ヒイロ…?」  イフリムの顔が怪訝になる。 「リム、優しくしてくれてありがとう。エルセイウの事は好きだけど…魔物になって生きていくのは…俺には辛いんだ…人間でいたい…」  言いながらガウンの中に忍ばせたナイフを取り出し、首筋に当てた。 「ヒイロ、やめて!」 「俺の血は、リムにあげる。あげ続けられなくてごめんな。でもいっぱい汲んで…元気になって…」 「ヒイロだめだよ!レン!セイ!来てっ!早くっ」  そう叫んだ直後、イフリムは激しく飛び散るヒイロの血を浴びていた。 「どうしたリム…っ!」  バタバタとバレンティンとエルセイウが入ってきた時に目にしたのは、ゆっくりと残像を残すように倒れるヒイロとその前で全身を真っ赤に染めているイフリムの姿である。 「ヒイロ!」 「どうしたんだ?リム!」  顔中を赤に染めてイフリムは呆然と佇んでいて、バレンティンの声にも反応をしない。 「イフリム!」  軽くだがイフリムの頬を叩いて肩を揺する。 「何があったか話して、リム」 「わかんないよ…話しをしてただけ…なのに…セイの話ししてて、ずっと一緒にいられるねって…」  イフリムはちょっと気が動転していて、まともに話ができないでいる。  バレンティンはそんなイフリムをベッドへ座らせると 「気を鎮めてね…」  と言い残して、ヒイロを抱えるエルセイウの元へ行った。 「どうだい?」 「ためらったんだろう。出血の割には傷は小さくて浅いが…頸動脈をかすっている広がらなければ良いが…」 「出血が多いわけだね」  ヒイロを囲んで、バレンティンとエルセイウが何か話し合っている間、イフリムは呆然とその光景を見つめていた。  何が起こったのか頭が理解してくれないようだ。  そんな時、頬を伝って落ちてきたヒイロの血が唇へと流れてきた。イフリムは無意識のうちにそれを舐め取り飲み込む。  目眩のようなものが全身を巡り、いつも半分眠たいような気分は無くなりそれに比例するように気持ちも強くなった気すらしてくる。  すごいと思った。  過去にも何度かトランシェリアンの血は汲んだことがあったが、ヒイロのは格別でかなり強烈な効き目である。 「レン、俺がヒイロの血を先に汲んでもいいだろうか。早く仲間にしないとヒイロが…」 「順番はこうなったらどうでもいいんだけど、でも君が先に汲んでしまったら君とヒイロは…」 「それは構わん。それならばいいな…」  あまりゆっくりもしていられないとエルセイウはヒイロを抱き上げ、切った方では無い方の首を開けさせた。  その時 「セイ、待って」  イフリムがいつの間にか2人の後ろに立っていた。 「リム?」  バレンティンが不審な声をあげるほどイフリムの双眸が赤く輝き、いつもの優しい柔らかな印象の目とはまるで違う、それはそう…久しく見ていなかった、イフリムが獲物を捕える時の燃える瞳だった。 「僕がやる」  2人を押し退けて、イフリムはヒイロを2人からそっと引き受けてベッドへ向かう。 「リム…身体は…」 バレンティンの問いに、イフリムは唇についたヒイロの血を中指と薬指で撫で付けそれをペロリと舐め 「ヒイロの血は、凄いよ」  と微笑んだ。 「僕に任せてよ。悪いようには絶対にしないから。だから…」  銀糸の髪が一本一本生きているかのようにざわめいて、ヒイロの血で染まった顔を際立たせる。  出ていてくれと言っていた。  その言葉には絶対的な意思が含まれている。 王が甦った。  バレンティンとエルセイウはそれに気付くと、恭しく頭を下げ少し心配が勝つエルセイウの肩を叩いてバレンティンと2人は部屋を出て行った。  それを確認すると、イフリムは息も絶え絶えのヒイロをベッドへ降ろし、真っ赤に染みたガウンの前を広げる。  ヒイロの息は既に途切れかけていて、身体も小刻みだが痙攣を始めている。  見ているだけでつらそうだ。 「バカだなヒイロ…時間はいくらでもあるって話してたばかりじゃないか。人間の尊厳なんて…そんな事でこんなに苦しむ事ないのにさ…ばかだよ」  イフリムは切ない顔をして、ヒイロの青くなり始めた頬をそっと撫でその指を傷口へあてる。 まずは止血だ。  ヒイロの血を汲んで力を付けたイフリムには容易いことだ。30秒ほど指をあてていると、溢れるように流れていた血が急速に止まる。  少し自信がなかったが、力が普通に使えたようでイフリムも安堵した。  そして両手でヒイロの頬をそっと横向きにして、その首筋へと唇を寄せる。  イフリムの一族はその力で噛まずに血が汲めるので、よく言われる牙の跡は残らない。ただ所謂キスマーク状の物が残るのみだ。  イフリムはヒイロの首筋へ一度キスをすると、そしてそれを開き吸い上げる。  力はさっき貰ったからいい。今はいち早く仲間に加えて、不死の力を与えなければならなかった。  だいぶ出血していたヒイロからあまり汲みすぎても良くない。イフリムは啄むように3回吸って様子を見る。  5分ほどして、ヒイロの息が穏やかになってきた。イフリムはホッとしてベッドへ腰を下ろす。 「がんばって、ヒイロ。あとは君の力だけだから」  そうヒイロに言って、イフリムはドアの外で待っているであろうエルセイウとバレンティンの元へ向かった。 「ヒイロは…」  壁に寄りかかっていたエルセイウがイフリムに寄ってくる。 「止血もしたし、血も汲んだ。今はもう呼吸も穏やかになってるから、大丈夫だとは思うけど…」  エルセイウはそれを聞いて少し安堵の表情を浮かべ、入ってもいいか確認し大丈夫と言われると足早にヒイロの元へ向かった。 「後は、再生に耐えられるかどうかだけど…。出血量が多いからそこは僕にはなんとも…」  エルセイウの後をバレンティンと追いながら、イフリムはバレンティンに告げた。 「ヒイロ()も生きたがってなかったからね…難しいかもしれないけど…」  ベッドに座りヒイロの髪を撫でながら何か声をかけているエルセイウの姿を見て、2人は切なくなっていた。  彼が愛した人が「また」いなくなるようなことがないように…祈るものを持たない彼らも、この時ばかりは何かに縋りたい気持ちになっていた。  夜が明けて3時間が経った。  ヒイロの呼吸はだいぶ楽になっていて、その頃からエルセイウはヒイロの耳元でその名を呼ぶことを定期的に繰り返している。 「ヒイロ…」  もう何度目になっただろう行為を行って、ため息をついた。  ヒイロは顔色はだいぶ戻ったが、未だ目を覚まさずに眠り続けている。 「まだダメか…」  エルセイウは焦っていた。  焦ってもどうにもならないことはわかってはいたが、、このままヒイロがいなくなりでもしたら、自分はどうなってしまうだろうか。エイダの時のような気持ちに苛まれるのを耐えられるのか…エルセイウはそれに答えが出せないでいる。  狂ってしまえればいいのだが…自嘲的に笑って、取り敢えずヒイロのために汲んであったグラスの水を交換しようと、グラスを持って立ち上がり水指を持ってベッドサイドへ戻った時だった。 「ヒイロ?」  ヒイロが目を開けたいる。  じっと天井を見ていたが、呼びかけにエルセイウへと目を向けた。 「目が覚めのか…」  静かな声でゆっくりと話しかける。 「ここは…」  ヒイロの声は酷く掠れていて、あの弾むような澄んだ声はない。 「ヒイロの部屋だよ。よかった…助かったんだなヒイロ…」  ベッドの端に座ってエルセイウはヒイロの頬に手を当てた。 「心配させるな…」  愛おしそうに触れる指先を感じながら 「助かっちゃったのか…俺…」  残念がってはいない顔で、ヒイロはエルセイウを見つめる。 「死なせはしない」  エルセイウは笑って答えた。そして首筋へ触れ 「大丈夫か?」   と尋ねた。 「うん…ちょっと痛いけど、それ外は平気。でも、喉が渇いたかな」  喉を鳴らしてみるが、口の中はパサパサすると感じるほどだ。  エルセイウはたった今変えたばかりの水を口に含み、ヒイロの唇にあてゆっくり流し込んでいく。 「ん…うまい…けど、水じゃやだな…」  再生は成功したようだ。  エルセイウはこれで本当に大丈夫だと心底ホッとした。 「そうか、それなら…」  とヒイロの口元に自分の首筋が来るように重なって、ー汲んでみるといいーと耳元で囁く。  どうすればいいのかなんて誰にも教わってはいないのに、ヒイロはエルセイウの首筋に唇を当て、キスマークをつけるように吸い上げた。これは吸血鬼へ変体した時の本能のようなものなのだろう。  ヒイロは貴族階級へと再生した。それなりの吸い方をきちんとわかっている。 「旨い…」  離れたエルセイウに微笑んで、それに応えるようにエルセイウも微笑んだ。 「それでは、リムとバレンティンを呼んでくる。2人とも心配していたからな。目が覚めた姿を見せてやろう」 「ねえ、エリー」  ドアへ向かおうとしたエルセイウを、ヒイロの掠れた声が呼び止めた。 「貸しを作っちまったな」  吸血鬼…まして貴族階級になってしまった今では、再生前のドロドロとした感情は微塵もない。  しかし、生きることを放棄した自分をこうして助けてくれた背景は、考えないわけにはいかなかった。 「そうだな…だからお前は私の元に居続けなければならないな」  ヒイロもクスッと笑う。 「エリーとバレンティン…そしてイフリムの側だろ?」  エルセイウはー違うな…ーと呟いてヒイロのそばに戻ってくると、まだ色が完全に戻っていない唇にキスをして、 「俺の元にだけでいい…」  そう言って部屋を出て行った。 「何言ってんだか…」  ヒイロは苦笑して、それでも嬉しい感情を素直に受け入れた。 「ヒイロ…」  部屋に入ってきたイフリムは、心配そうに声をかけてきた。 「リム、ごめんな」 「あんまり脅かさないでよー」  思ったより元気そうなヒイロに、イフリムは安堵する。 「まったくだよ。リムに感謝するんだね」  もう1人おっかないやつがいたんだった、とヒイロはバレンティンの顔を伺った。しかしバレンティンは意外にも優しい面差しでヒイロの視線を受け止めてくれた。 「実際死んでしまった人間は、僕らの餌になっちゃうんだぞ。ほんともうそんなことにならなくてよかったよ。大好きな君を食べるエリーなんて見たくなかったからね」  「バレンティン、口が過ぎるぞ」 「何を今更照れてんのさ。そうならなかったんだからまあ、いいじゃん」  大好きな、とか言われヒイロもエルセイウの顔を見られなくなってしまった。 「ヒイロだって、昨日僕に『エルセイウのことは好きだ』って言ってたよね。僕聞いたからね」  イフリムまで面白がってくる。 「あ、それ言わないって約束し…うぅっっつぅ…」  思わず叫びかけて、喉の痛みに顔を歪めた。 「いきなり大声出そうとするからだ」  エルセイウが、起き上がりかけたヒイロの体を優しくベッドへ押して、寝かせる。 「その声も早く治るといいねえ…僕はヒイロの声好きなんだ。元気が出るから」  ヒイロの脇に立って、イフリムは頬にキスをした。 「ありがとう…治らなかったら一生悩むかもこんなだみ声」  ヒイロも笑ってイフリムのほほに手をあてる。そしてその指をイフリムの唇に当てると 「噛んで吸って…直接血を汲んでほしい」  言われた通り、イフリムは牙を出してヒイロの指に歯を立て小さく血を絞りそれを舐めた。 「王のために…」  ヒイロの血を唇に乗せ、イフリムはその血を身に入れたことで銀糸の髪を振るわせて妖艶に微笑む。 「受け取った」  ヒイロの手をにぎりしめて、イフリムは頷いた。  永遠の命を共有する仲間に、ヒイロは今加わった。これからのことはこれから考えたらいい。とにかく今は、身体を戻すことである。 「リム、ヒイロも目が覚めたばかりだから無理させちゃいけないね」  バレンティンがイフリムの背中へ手を当てた。 「そうだね。じゃあヒイロ、また来るから」  ニコッと笑って、ヒイロに手を振るイフリムにヒイロは聞いた 「なあリム、リムもバレンティンのこと好きなのか?」  唐突に聞かれ、イフリムはあの時バレンティンが自分の終わりの時に一緒に逝くということを話したからだと思いつく。  しかしその答えはイフリムからではなく… 「そんなの当たり前でしょ。君も、僕たちの心配なんてしてないで、自分たちのこと考えてたらいいと思うよ」  とバレンティンが答えてきた。しかも逆襲してくる。流石だった。  2人はじゃあね〜と部屋を出てゆき、残された2人は考えを巡らせているのか黙ったままだ。  そう言えば、自分の気持ちをエルセイウに言ったことがあっただろうかとはたと考える。  エルセイウを見ると、自分を見下ろしていた。 「え…あの…うん…あ〜」  何を言っていいか分からず、掠れた声でヒイロは戸惑う。 「無理して喋らなくていい」  掛けた布団の上の胸の辺りに手を置いて、エルセイウがベッドに座った。 「先は長い。永遠だ。俺はヒイロを愛している。いつでもそばにいるから、お前の気持ちがお前の中で完成したら、伝えてくれ。振られるかもしれないけどな」  そう言って笑うエルセイウにー多分…それはない…ーと小さな声で応えてヒイロは布団をかぶってしまう。  告白は本当に勇気いるし恥ずかしい。いつかちゃんと言葉で伝えられるようになったら言おう。と決めて、そっと目まで布団を下げてみる。  優しい顔で見つめるエルセイウに、 「でも…わかってるよな…きっと」 「ああ、俺の元にいるとも約束したことだし…」 「へへっ」  ヒイロの唇は、エルセイウのそれに塞がれた。  傷を気遣ってのキスだが、深く、甘い。  それはこれからの永遠を誓うキスだった。

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