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第6章 大打撃1

   *  翌朝、宣旨長官が館を訪れた。  部屋にこもり、落ち込んでいる僕を父様と母様が不安げな様子で顔を見合わせた。  すぐにエドワード様の差し金だ、とピンとくる。  恋人でなくなり、利用価値がなくなった今、あの方は僕を全力で潰しにかかる。  邪魔者は徹底的に排除する、そういう方だから。  別れを告げた途端に本性をお見せになるのだな、と他人事のように思いつつ、両親の後に続く。 「王様の命を宣旨する。『ルキウス・クライン。そなたは第三王子・エドワードへの無礼な態度をとり、その上文官としての職をまっとうせず、エドワード王子の寵愛を盾に職務怠慢した。よって文官の職を解き、王宮への出仕を永久に禁ずる。以降、そなたは王宮で新たな職を得て働くことはできぬものと心せよ』。以上だ」  「そんな……」「どうして?」とメイドたちのざわめく声が耳に入る。 「お待ちください、長官!」  人事長官と知己の仲である父様は長官に物申す。 「これは、いくらなんでもあんまりではございませぬか!」 「ラーメス……」 「たしかに別れを切り出したのは、ルキウスからです。しかし、エドワード様はルキウスの言葉に憤り、ルキウスをひどく殴ったという話ではありませぬか! 息子がエドワード様に殴られているのを目にした女官たちもおります。そもそも、うちのルキウスは体調不良で休むことはあっても、仕事はきっちり行ってきました。それは文官棟にいるスチュワート様たちも周知のこと。何よりルキウスは王族の血を引いている人間です。それなのに、なぜ……!」 「これは王様と重臣たちが、すでに決めたこと。たとえ、この巻物に書かれていることが事実を誇張し、歪曲したものでも、我々の一存で決定事項を覆すことはできぬ。そのためには多くの者たちの署名が必要になる。そんなことは、おぬしが一番わかっておろう」 「長官!」 「ルキウス殿、お父上とお母上を大事にな」 「はい、(つつし)んでお言葉を拝領いたします」  父様は茫然自失となり、床に膝をついた。  母様は、おばあ様と共に王様へ請願したのに、言葉を聞き入れてもらえなかったことを知り、ショックのあまり気を失った。  オレインが母様の身体を抱きとめ、メイドたちが「奥様、お気をたしかに!」と泣き叫んだ。 「なぜだ。なぜ、このようなことに……」  そう(つぶや)いて父様は項垂れた。  屋敷の中は人が亡くなったみたいに、重々しい空気で充満していた。  僕の未来が半永久的に閉ざされた。文官としての任を解かれ、王宮で働けなくなることはエドワード様との別れを決意したときに、覚悟した。  クライン家のイメージを悪くし、力を削ぐ。徐々に王様や、他の王子様の力をなくすのが、彼の目的だろう。血族である僕を王宮から追い出すことも、エドワード様に逆らったらどうなるか――王家の血を引く人間でも職を解かれ、前途多難になることを貴族や、騎士たちにわからせるための見せしめだ。  明らかに意気消沈している両親や従者たちの姿を目にするのは心苦しい。 「新しい職を探して参ります」  書き置きを自室に残し、綺麗な黒い目をしたフロラインの顔を撫でる。彼女に(またが)り、野を駆ける。  エドワード様は僕を愛していなかった。父君である王様の権力を利用し、むごい真似をした。これから、ますます風当りは強くなる。クライン家のお取り潰しだってあり得ない話じゃない。その前に何か先手を打たないと!  僕は城下町で降り、フロラインを(うまや)に預け、町中を歩く。求人広告やビラを手に取り、ポスターが貼られている店を探す。  今まではエドワード様の恋人だった。だけど今回、僕は彼に別れを告げた。だから前回や前々回の世界とはだいぶ状況が変わるはずだ。  ここからは未知の世界だ。何が起こるか詳細なことは、わからない。  一番恐ろしいのは、一年という(ゆう)()をいただいたのに、ノエル様の登場や王族の毒殺未遂やクーデター事件が早まるかもしれないこと。  早く英雄を見つけ出さないと、みんなの命が奪われてしまう。  僕はビラと求人広告の冊子をギュッと両手で摑み、接客業を営んでいる店のドアを開ける。  城下町で接客業を行えば英雄に関する情報を得られ、英雄本人と会える可能性が上がると考えたからだ。   *  青空の下で双子たちは、おば様から野に咲く花の名前を教わっていた。男の子であるアポロンは虫とりの方に意識が向き、女の子のアルテミスは花輪や花の指輪をせっせと作っている。  僕ら三兄弟は庭の椅子に腰掛け、穏やかな風景を眺めながら、話していた。 「それで、どこからも雇ってもらえなかったのか?」 「はい、城下町だけでなく隣町や隣の市にも、手当たり次第に行きましたが、駄目でした」と僕は兄様に返事をする。

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