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第5章 終わりを告げる恋4

「許さん……許さんぞ、ルキウス。俺をこけにしおって! このような仕打ちを、王子にしていいと思っているのか!? 覚えていろよ、俺を袖にしたことを後悔させてやる! だれからも愛されず、ひとりで野垂れ死ぬがいい!」  背後からエドワード様が僕を呪う声がする。僕は迫りくる闇を振り払うように、王城をあとにした。  文官棟のほうを歩いていると誰かに肩を叩かれる。はっとして後ろを振り返ったら……「ルカ、なんだか歩き方が変だけど怪我でもしたのか?」  困惑顔のピーターがいた。  僕は自嘲気味なな笑みを浮かべる。  別れを告げたのに何を考えているんだろう。あの方が僕を追いかけてくるなんて。いつだって僕が一方的にあの方を追いかけていただけなのに……。 「なんでもない、なんでもないんだよ」  ひどく狼狽しているピーターに返事をする。  怪我を医師に診てもらうこともせず、職場へ戻る。  エドワード様との出来事を忘れたいと思い、仕事に向き合った。  だけど仕事はヒッチャカメッチャカだった。いつもならしない単純なミスばかりして、周りの人に迷惑をかける。仕事仲間は「そんな日もあるよ」と慰めてくれたが、僕は気が気でなかった。  重大な過ちをしなかったから安心、ではない。十八で学院を卒業したときから続けてきた仕事だ。普段の精神状態であれば、目をつぶっていても通常通りの業務を滞りなくできる自信がある。  それなのに、僕は目の前の仕事に集中できていない。  エドワード様と別れた事実にばかり、意識がいっているからだ。そんな自分が情けなくなる。  十時の小休憩の時間になる。お茶を淹れようと席を立ち、給油室へと向かう。そこには料理棟の女性と文官棟の女性陣が群がっていた。僕がエドワード様に別れ話を持ちかけて殴られたという話を彼女たちが話しているのを耳にする。  何事もなかったかのように振る舞い、お茶を淹れ、足早に席につく。朝の分を取り戻さなくてはと休憩時間も終わらぬうちに仕事へ取り掛かる。  僕とエドワード様の話は、あっという間に王宮内に広まり、職場の人たちは腫れ物に触るような、よそよそしい態度をとった。男はエドワード様以外にもいると励ましてくれたり、怪我の心配をしてくれた。  だけど今はそのやさしさが、善意が僕をいたたまれなくする。気を遣わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。それでも机に向かい、必要な書類を淡々と作っていく。  昼前になるとスチュワート様に「まだ身体が快復していないだろうから、今日は午前で上がって、午後はゆっくりしなさい」と言われてしまった。  ひどく泣きたい気持ちになった。  そのままトボトボと帰路につき、食事も摂らずに部屋に籠もった。  オレインやメイドたち、母様の心配する声も聞きたくなくて耳を塞ぐ。  何もかもが嫌になって、今日だけはと言い訳をしながら、ひとり枕を濡らした。

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