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第5章 終わりを告げる恋3*
エドワード様は僕の言葉を受け入れられないのだろうか。口元を引くつかせ、僕の腕を摑む。みしと骨がきしむほどの強い力に、顔を顰める。
「冗談はよせ。おまえは俺のことが好きなんだろ? あれほどよくしてやったのに、何が気に食わない?」
「エドワード様に非はありません。問題は僕の方です。もう、あなたを愛していないのです」
「ルキウス……」
「本当に申し訳ありません。あなたの大切な時間を無駄にさせてしまったことを、なんとお詫びしていいのやら」
「詫びなどいい、俺のところへ戻ってこい!」
「それはできません」ときっぱり答えれば、エドワード様はひどく戸惑われた。「たとえ一時とはいえ、僕のような人間をエドワード様の恋人としていただき、感謝申し上げます。ですが、もう終わりにさせてください」
自分の本当の気持ちを彼にぶつけたのは、これが最初で最後だ。
無言のまま項垂れているエドワードにお辞儀をする。
「では、これにて失礼いたします」
部屋を後にしようとするとエドワード様に乱暴に手首を摑まれる。
彼に手を引かれ、ソファの上へ無理やり押し倒される。慌てて起き上がろうとすれば、強引に口づけられた。
以前はエドワード様との口づけが好きだった。僕から彼に口づけをねだることもあった。
それなのに、今は嫌悪感と気持ち悪さしか感じない。
「何をなさるのですか!?」
「最近構ってやれなかったからな。だから、そのようにつれない態度をとるのだろう?」
「違います、お退きください」
起き上がろうとすれば、シャツのリボンを解かれ、ボタンに手をかけられる。
「しおらしいおまえが、そのように反抗的な態度をとるのも燃えるな。それはそれで唆 るぞ」
エドワード様の舌が首筋を何度も往復する。彼の手が僕の下半身へと手が伸びる。僕の自身が兆していないことに気づくと、痛みすら感じる手つきで強く揉 まれる。
「嫌、嫌です……やめてください!」
「強情だな。少しは大人しくしろよ」
ノエル様を愛していたときのような優しさなど微 塵 も感じられない愛撫。
男に犯される恐怖に駆られ、僕は彼の頬を張ってしまった。
エドワード様は僕に頬を張られたことが信じられないようで、ぼうっとしていた。
さっと彼の下から抜け出して着衣の乱れを手早く直す。
だから、エドワード様のお顔が次第に赤くなり、彼が全身を戦慄かせていることに気づけなかった。
「生意気な……俺はこの国の第三王子だぞ。血族だからと無礼極まりない態度をとっていいと思っているのか!」
髪をむんずと摑まれ、床に向かって投げつけられる。僕は身体を強く打った衝撃で一瞬息ができなくなる。
「しょせんは側室が生んだ子と、おまえも俺を馬鹿にするのか!」
烈火のごとくお怒りになったエドワード様は僕の身体に馬乗りになり、容赦なく僕のことを殴 打 した。
騒ぎを聞きつけた女官たちが「何事ですか!?」と控えの間から飛んでくる。
彼女たちが僕の名前を叫ぶ声が遠くから聞こえる。
女官のひとりが勇敢にも、エドワード様の凶行を止めようと行動に出る。
だが、「邪魔をするな!」とエドワード様に振り払われ、床に尻餅をつく。
そうして僕はまたエドワード様の暴力を一身に受ける。
「おまえのような王族の血を引いている以外に取り柄のない不細工な虫けらが、俺以外の人間から求められると思い上がるな! 先ほど口にした言葉を取り消せ! 今すぐ、この俺に謝れ!」
「っ……不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。……エドワード様の仰る通りでございます」
謝罪の言葉を口にすれば、エドワード様は満足そうな様子で「わかればいいのだ」と機嫌よく笑う。僕の上から退き、手を差し伸べる。
「さあ、ルキウス。仲直りをしよう。もう二度と『別れる』なんて、ひどいことを言わないでくれ」
しかし、僕はエドワード様の手を払う。
ふらつきながらもひとりで立ち上がり、ノロノロと歩く。
壁際に身を寄せ、身体を震わせていた女官たちは恐ろしい魔物でも見たような形相で「ひっ!」と悲鳴をあげる。
状況を理解できずにいるエドワード様を一 瞥 し、ドアノブに手をかける。
「エドワード様は、この国の王子様であらせます。男であり、出産もできぬ役立たずな僕よりも、どうか聡明なご令嬢や姫君を奥方にお迎えくださいませ」
「何を、」
「僕は血族であること以外、なんの取り柄もありません。この先、僕のような人間を心から愛する方は、一生現れないでしょう。ですが、構いません。僕は自分で選んだ道を歩いていきます」
身体中が痛い。歩くたびに悲鳴をあげたくなるほどの激痛が全身に走る。
それでも不思議と、大切な人たちを失ったときや、エドワード様に裏切られたときに味わった、胸の痛みに比べれば、こんなものはかわいいものだ。
「力づくでどうこうしようと僕の気持ちは変わりません。それではさようなら……エドワード様」
エドワード様の私室を出て、扉を閉める。
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