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第8章 覚悟のほどを見る2

「おまえが言うな、エリザ。おまえもガキの頃に似たようなことをしただろ?」 「なっ、なんのことよ!?」とエリザさんは動揺する。 「北国の雪の城の潜入捜査」  ため息まじりにメリーさんが答える。  するとエリザさんはわざとらしく目線を花々の方へとやる。 「『危ないからついてくるな』って口を酸っぱくして言ったのに、最後まで言うことを聞かずにオレたちを困らせただろ。んで、そのときの功績とオレの推薦のおかげでギルドに加入できたんだろうが。忘れたとは言わせねえぞ」  僕はマックスさんの言葉に驚き、エリザさんの方を見る。  バツの悪そうな顔をしてエリザさんは、唇を嚙みしめていた。 「さて、なんとなくわかってそうだが、念のために軽く自己紹介といこうか。オレはマックス。見ての通り剣士だ。んでもって、白ひげの長い杖持ったじいさんがクロウリー。治癒系の白魔法も、攻撃系の黒魔法もなんでもござれな魔術師だ。そこの赤い服を着ている銀髪の兄ちゃんがメリー。盗賊あがりのトレジャーハンターで飛び道具やら両手剣が得意だぞ。で、うちの紅一点が……」 「エリザ、剣闘士よ! 肉弾戦が得意だけどランスも使うわ」とやけくそ気味にエリザさんが答えた。 「クライン家の次男、ルキウスと申します。皆さんの足を引っ張らないように精いっぱい頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」  そうして先生とメリーさんと握手を交わす。  しかしエリザさんは面白くなさそうに、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。行場のなくなった自分の手と彼女の横顔を交互に見た。 「ったく、いい歳して大人げないやつだな。ところで、あんたのことはクライン殿? それともルキウス様ってお呼びしたほうがいいのか?」とマックスさんは言いづらそうに僕の名前を呼んだ。 「えっと、好きなように呼んでくださって構いませんよ。お気軽にルキウスと呼んでください」  苦笑まじりに答えればマックスさんは「じゃあ、ルキウスって呼ばせてもらうな」と息をつく。 「エリザは悪いやつじゃねえから誤解しないでやってくれ。ただ、へそを曲げると頑として人の言うことを聞かない悪いくせがある。あんまり気にしないでくれよ」  手を下ろし、申し訳なさそうにしているマックスさんを見上げる。 「はい、大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます。エリザさんやサギーさんに認めていただけるよう、ビックコブリンを倒したいと思います」 「そうか、それは頼もしいな。で、どうやってビックコブリンを倒すつもりなんだ?」    *  ――成人したゴブリンの大きさは80から140センチメートルと人間の子どもくらいだ。  だが、ビックコブリンは巨人のように大きかった。人間の大人を片手で摑めてしまうくらいの手の大きさをした大男。僕は縄で両手を縛られた状態で前後左右にいr七人のゴブリンたちにせっつかれながら、ビックコブリンたちのまえに出る。 「親分、人間を生け捕りにしてきました!」  赤い帽子を被ったゴブリンが大声でビックゴブリンへと話しかける。  するとビックゴブリンといっしょに酒を飲み、食事をしていたゴブリンたちの視線が僕に集まる。 「なんでも王家の親戚だとかで、このように金銀財宝を持っておりました」  橙色の帽子を被ったゴブリンが、もみ手をしながら説明する。  黄色の帽子を被ったゴブリンが僕の所持金である金貨や銀貨をテーブルへばらまく。そして緑色の帽子を被ったゴブリンがうやうやしく純金を素材にした懐中時計と青いサファイヤのリボンタイ、そして七色に光る不思議なダイヤモンドをビックゴブリンへと手渡した。  ビックゴブリンダイヤモンドを迷わず手に取り、眺め見た。 「こいつは素晴らしいな。おい、そこの人間をどこで捕まえた?」 「へい、洞窟のなかをうろついていたので、背後から襲って捕まえやした」  つっけんどんな様子で青色のゴブリンが僕の頭を小突き、脛を足蹴りした。 「だ、駄目だよ。そんな風にルキウスさまを乱暴に扱ったりしたらアレクサンダーさまや、ウィリアムさまに怒られちゃうよ!」  藍色の帽子を被ったゴブリンはブルブル震え、怯えた様子で青色のゴブリンを止めに入る。  青色帽子のゴブリンは藍色帽子のゴブリンの口を慌ててふさぐ。 「……親分、どうもおかしくねえですか? おれらの仲間でこんなカラフルな帽子を被ったやつは見たことがねえですぜ!」 「そうだぜ、親分! こいつは何かの罠かもしれねえ!」  ビックゴブリンの部下たちは立ち上がり、棍棒を手に取った。  紫色の帽子を被ったゴブリンが近くにいたゴブリンの手を摑み、「駄目だよ!」と舌足らずな口調で止める。 「おじちゃんたち、ひどいよ……ぼくたちのことを忘れちゃったの?」  目をウルウルさせて泣き真似をする。  紫色のゴブリンの()()により、臨戦態勢だったゴブリンたちの目にハートが浮かんだ。  そうしてゴブリンたちは席につき、うっとりした表情でデレっとする。 「すまねえな、どうも酔いが回っちまったみてえだ。おまえのことを忘れちまうなんて、悪かったな」 「いいよ。それより、おじちゃんたちはもっとお酒を飲んで! いつも、お仕事お疲れ様」

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