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第8章 覚悟のほどを見る1

 容姿端麗で金髪碧眼の美しい青年。気性の激しいところがあるものの甘いマスクと、どこか危うげな人を引きつける雰囲気を纏っていたエドワードさま。  若い女官や姫君、神官たちを虜にした。そんな彼の笑みは、王さまだけでなく重臣たちの心を摑んで離さない。  対してマックスさんは正統派の美男子ではなく、兄さまやピーターみたいな兵役についている人たちのようだ。武闘派で男らしいタイプ。ガッシリした体躯に、精悍かつ凛々しいい顔つきをしている。  エドワードさまと正反対の人。  それなのに僕は、マックスさんのことが気になり始めてる。  すでにエドワードさまと別れている身だとしても、いくらなんでもどうかと思う。  義姉さまが「いずれ新しい恋をできる」と慰めてくれたからって、浮ついた心持ちでいる自分を恥じる。  エドワードさまと付き合う以前だって、こんなにすぐ男の人を好きになることはなかったのに……。そもそもマックスさんが、僕のようなそばかすだらけの無器量な顔つきをした痩せぎすな人間を、選ぶわけがない。そんな男よりも、美人や可愛らしい顔つきの豊満な身体をした女性を選ぶに決まっている。もし同性を好きになれる人だとしても、ノエルさまやビルのように容姿が整った男性を好むだろう。  人並み以下の容姿をした人間が、大切な恋人や唯一無二の伴侶にする物好きな人はいないのだから……。  自分を卑下して勝手に落ち込む。  もしも僕がもっと優れた容姿をしていたら、エドワードさまも僕を愛してくださったのかも……なんて絶対にあり得ない、馬鹿げたことを考える。  何も言わずにいたら、暗殺集団と戦ったときのようにマックスさんが心の中で話しかけてくる。 (オレはおまえを信じるよ) (どうしてですか? なぜ――見ず知らずの人間である僕に、そこまで優しくしてくださるんですか?) (助けてもらった恩があるからな。道行く人は異国人である俺が困っていても、そのまま通り過ぎるか笑って冷やかすだけだった。でも、あんたは違っただろ。用があって急いでいたのに、オレのことを助けてくれた) (たまたまですよ。怒っているルパカーの様子が気になっただけで……) (だとしても、あんたはオレにも対等に接してくれたよな。ルパカーに受けた攻撃の手当もしてくれたし? あんたが嘘をついていないのは目を見ればわかる。だからオレたちのことを信じて、どういう事情なのか話してくれないか? 悪いようにはしないから)  僕は震える唇を開き、今までの経緯を順序立てて彼らに話した。   * 「――だからギルドにどうしても加入したいんです」  きっとエリザさんは僕のことを鋭い目つきで睨み、無言のまま、こちらへ歩いてくる。僕は彼女に胸ぐらを摑まれ、無理やり立ち上がらせられるとそのまま頬を張られた。僕はいきなりのことで目を白黒させる。 「おい何をしとるんじゃ!」と先生がエリザさんを羽交い締めにする。  エリザさんは「おじい様、離して!」と先生の手を振りほどく。 「なめたこと言ってるんじゃないわよ! 王宮で安穏と暮らしていたあんたに、何ができるって言うの!?」  顔を真っ赤にさせてエリザさんはカンカンに怒った。 「落ち着け、エリザ!」  渋い顔つきをしたメリーさんが、興奮状態になったエリザさんをなだめながら、僕の方へ同情に似た眼差しを送る。 「あなたの事情は痛いほど理解できるが……だからこそ、それはギルドに任せてほしい。あなたは王族の血を引く身分の高い方だ。このような死と隣り合わせの現場で、できることは少ないだろう」  図星を突かれ、何も言えないでいるとエリザさんがさらに追い打ちをかけてくる。 「あんたが言っていることが本当だとしてもね、英雄を見つけることを理由にギルドへ加入なんてできると思う? あたしたちはね、命懸けでこの仕事をやっているの。遊んでいるわけじゃないのよ! 王族のお坊ちゃんに付き合っている暇はない!」 「遊びじゃありません!」  いくらなんでもあまりな物言いをされて僕は反論した。  どうしたら伝わるのだろう……。うまく自分の真剣さを、この気持ちを彼らに伝えることができないもどかしさを感じる。 「自分でも何ができるかわからないです。けど、どうしても未来を変えたい……大好き人たちが命を落としたり、傷ついて悲しい目に遭うのは嫌なんです! 何もせずにはいられません!」 「では問わせていただくが、貴君はなんのために戦うんじゃ?」  表情の読めない顔つきをした先生に尋ねられる。  僕は即座に答える。 「僕は大切な人たちを守るために戦うんです。大切な人たちがエドワードさまやノエルさまたちの奸計によって、無命を落としてほしくありません。今の暮らしを誰かの悪意によって壊されることもなく、幸せでいてほしいです。綺麗事だとしても、大好きな人には笑顔でいてほしいと思います……」 「――なるほどな。あんたの考え方、嫌いじゃないぜ。で、ビックコブリンをどうやって倒すつもりなんだ?」 「マックス!」とエリザさんが、かなり切り声をあげる。 「ギルドに登録もできていないやつをパーティに加入するつもり? もし協会にバレたりしたら、うちは大目玉を食らうのよ!」

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