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第8章 覚悟のほどを見る3
そうして紫色のゴブリンはお酒の瓶を手に取り、ビックゴブリンの空になった盃に注ぐ。
残りの六匹のゴブリンも、紫色のゴブリンを見習ってビックゴブリンの手下であるゴブリンたちの機嫌を取り、酒をどんどん飲ませていく。
*
――マックスさんにビックゴブリンを倒す方法を尋ねられ、僕は杖を振った。
ポンと白い煙とともに七匹の小さなゴブリンたちが現れる。
「ルキウス殿、こいつらはなんだ? ゴブリンにしてはカラフルな帽子を被っているし、通常のゴブリンよりも小さくないか?」とメリーさんが顎に手をやって小首を傾げる。
「このゴブリンたちは、おばあ様の元・使い魔です。魔王と勇者が戦った際、人間側についた魔物たちになります。代々王家の別荘にある樫の木を家に暮らしていましたが、先の王様の時代に樫の木が腐り、朽ちてしまったため、今はクライン家の領地にある林檎の木を家にして暮らしています」
「で、こいつらがなんの役に立つって言うのよ? どう見ても、ただのザコキャラにしか見えないんだけど?」
「あっ」と思ったが遅かった。
「うるさいぞ、女。そんなことを言うならこうしてくれる!」
顔を真っ赤にしたイエローが怒鳴り声をあげ、エリザさんに金縛りの術を使ってしまった。
「ほほう、なるほど。状態異常の魔法を使えるゴブリンというわけじゃな」
クロウリー先生は自身のヒゲを撫でつけながら、感心している。
「おじい様、納得しないでくださいな! これでは身動きが取れませんわ!」とエリザさんが大声で叫ぶとクロウリー先生は杖を振って、状態異常解除の魔法をかけた。
「つまりルキウス殿、このゴブリンたちは七匹とも、それぞれべつの状態異常の魔法を使えるのか?」
物珍しそうに7匹のゴブリンを眺めてメリーさんが尋ねてきた。
「左様です」と答え、7匹のゴブリンに合わせて腰をかがめる。
「彼らは通常のゴブリンよりも身長も弱く、体力もありません。しかし、彼らは魔王がこの世に生まれる以前のおとなしいゴブリンなのです。妖精たちとともに人間へちょっとしたイタズラをする存在。子育てをする親の力となり、子どものしつけを行います。彼らは引越作業や家事の手伝い、金属を扱った作業や火薬などの扱いが得意なんです」
「わしらはドワーフの旦那方のところで下働きをするのが好きでしたし、妖精たちといっしょに人間へイタズラをするのが好きなんですよ」とレッドは手を後ろ手にして答えた。
「けど、魔王様は人間も、ドワーフも、妖精も奴隷にすることばかりを考えなすった」とブルーは顔色を青くして、しょんぼりする。
「他のゴブリンは知らんけど、おいらたちには争い事は似合わねえ。あんなもんは苦手だ」
とグリーンは鼻の下を指で擦った。
「でも魔王様がこの地を血にまみれた地獄のような場所にして、ドワーフの旦那や妖精、人間がたくさん死ぬのはごめんさ。だから代々王家の巫女や神官を輩出していたクライン家についたんだ」とオレンジは胸を張った。
「やっぱり、クライン家は代々召喚師を輩出していたのか。その血は連綿と継がれ、ルキウスにも出たってわけだな?」
マックスさんが腰をかがめれば、インディゴがおどおどしながら「そうなんです」と返事をした。
「ルキウス様は三兄弟の中でも僕らの元・主だったオフェリア様の血を濃く継承したんですよ! それこそ赤ちゃんの頃から、ぼくらが面倒を見て、育ててきた可愛い子どもです。お兄さんも、お姉さんもルキウス様を乱暴に扱ったらぼくらが承知しませんからね!」
パープルはまるでヴィランさながらの悪い笑みを浮かべて、マックスさんたちに笑いかけた。
僕はそんなパープルの様子に思わず苦笑する。
「僕自身は戦闘に特化した魔法全般が不得意です。だから彼らを始めとした魔物や精霊、神々の力を借りてここまで来ました」
「それで、こいつらの力を借りてどうするつもりだ? 一匹、一匹の力はそこまで強くないだろ」
マックスさんは唇を尖らせながら、7匹のゴブリンたちの顔をじっと眺め見た。
「蛟の主と蛇使いのいた東の国には、七つの首を持った蛇の魔物を倒した英雄がいます。その英雄の倒し方を応用しようと思ってます。今、このゴブリンたちは銀行で日中働いています。なので彼らに銀行に納めている僕のお給料と宝石類を取ってきてもらうのです」
ふーん、とエリザさんは顎に手をやる。
「罠を張るってわけね。たしかにビックゴブリンは金目のものに目がないみたいだし」
「はい、その通りです」
「それで、ビックゴブリンを倒せる? 冗談じゃないわよ! ビックゴブリンはそんなヤワでもなければ、馬鹿でもないんだから!」
「わかっていますよ。だから僕も賭けに出るんです」
「賭けとはどういうことじゃ?」
片眉を器用に上げてクロウリー先生は、こめかみの辺りを押さえた。
「どちらにせよ、万が一ルキウス殿が窮地に陥った場合は、われわれがサポートで入る。最悪、俺の転送魔法でイワーク洞窟から離脱してもらうぞ」
「はい、構いません」
「ビックゴブリンを追い込む、または倒さない限り、マックスの力を借りられない――という内容で、よろしいだろうか? マックスも異論はないな?」
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