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第8章 覚悟のほどを見る4

「はあっ!? オレがルキウスの手伝いをしたっていいだろう! なんでルキウス一人にやらせる!?」とマックスさんが悪態をつく。  すると眼光鋭くエリザさんが僕のことを見据えた。 「マックス、ルキウス殿。大変申し訳ないが、こちらの事情を汲んでいただけないだろうか? あとでエリザには、きつく言っておくから」 「まったく、うちの孫娘は……」  やれやれまいったという様子でメリーさんが頭を下げ、クロウリー先生は天を仰いだ。 「大丈夫ですよ、『ビックゴブリンを倒す』なんて大それたことを言ったのは僕なんですし」 「御託はいいから、さっさと倒してきなさい! 時間の無駄よ!」  イライラした様子のエリザさんの声を聞き、7匹のゴブリンは怒り心頭になる。  彼らをなだめ、僕は7匹のゴブリンと作戦を立てる。 「ルキウス様! ビックゴブリンたちは今、洞窟の最深部で酒盛りをしているよ」 「今なら、作戦を決行できるのではないかと思います」  偵察に行っていたパープルとブルーの言葉に僕は頷く。  そこへタイミングよく、メリーさんといっしょに転送魔法で銀行へ行っていたイエローとグリーンが、大袋を持って帰ってくる。 「じゃあ、みんな。打ち合わせ通りによろしくね」  べそをかくインディゴを叱咤激励しながら縄で縛ってもらう。  オレンジが「準備はよろしいでしょうか? ビックゴブリンは手強いですぞ」と神妙な顔で訊く。 「もちろんだよ」 「それでは参りましょう」  マックスさんたちに会釈をして、先頭に立つレッドのあとを歩き始める。  急に「悪い!」とマックスさんが大声をあげ、こちらへ走り寄ってきた。 「少しでいいからルキウスと話をさせてもらえないか?」  7匹のゴブリンたちとアイコンタクトを取る。7匹のゴブリンたちは僕とマックスさんから離れた場所へ移動した。 「なんでしょうか?」と訊けば、「無理はするなよ」と言われる。 「命の危険を感じたらすぐに逃げろよ。死んだら『英雄』をさがすどころの話じゃねえ。元も子もないぞ。」 「マックスさん」 「ギルドの加入方法なら他にもある。戦い慣れしていないんだ。わざわざ危ない橋を渡る必要はない」 「ご心配いただき、ありがとうございます。ですが、やはりビックゴブリンを倒したいと思う気持ちは、変わりません」  彼の優しさに感謝する。  だがマックスさんは僕の返答が、かんばしいものではなかったからか唇を尖らせた。 「どうしてそこまで固執するんだよ? ビックゴブリンと因縁があるわけでもないんだろ?」  眉間に皺を刻んだマックスさんが肩をすくめる。 「そうですね、ビックゴブリンとの面識はありません。ただ――ビックゴブリンの所業が、ノエルさまのしてきたことに似ている、というのが主な理由でしょうか。人から奪うことばかりを考え、私利私欲のためなら人の命も簡単に奪う。その行為が許せないんだと思います」 「たしかにビックゴブリンのやってきていることは許せねえ。けど――」 「それに僕が文官として働いてきたのは、フェアリーランド王国に住む人のために、何かをしたかったからなんです」 「兄や友は兵役について外敵から人々を守っています。弟も普段は教授たちと論議していますが、実際に人々の暮らしぶりを見聞きし、財政問題について考えています。ですが――僕は病弱だからと王宮の外で仕事をしたことは、一度もありませんでした」 「ルキウス……」 「僕が担当してきた書類も貴族や騎士の報告書ばかりです。ですが義理の姉の暮らしぶりを知ったり、お忍びで城下町を歩いたときに自分が、どれほど恵まれているのかを感じました。家族から愛され、具合が悪くなっても従僕や医師に助けられてきたんです。学院に通っていて、同性愛者であることや容姿のことを他の貴族から揶揄され、嫌味や嫌がらせを受けました。それでも助けてくれる友ができたんです。いつも人から守ってもらったり、助けてもらうのが当たり前になっていて、自分からは何もしませんでした。  そのツケで……愛する人たちを失いました。恋人だと思っていたエドワード様に騙され、ノエル様にしてやられたんです。本来であれば斬首刑となり、死んでいた身です。『過去』の女神さの恩情を運よく賜ることができたから、今、こうやって生きています。だから今度は僕がみんなを守るんです。ギルドの話もフェアリーランド王国の一般の人たちが教えてくれました。そんな親切にしてくれた人たちの役に立ちたい。彼らの助けとなりたいんです」  自分ができることは少ないとわかっている。だけど、できることを精いっぱいやりたい。  そうして僕は、フェアリーランド王国が滅亡しない未来を摑みたいんだ。 「生意気なことを言っているのは、わかっています。マックスさんたちのように、魔物たちと戦うことで人々を救ってきた人たちから『甘ったれたことを』と思われても仕方のない自覚もあります」 「そんなことはねえよ。……少なくとも、あんたの心は覚悟ができているって、オレには伝わったからな」  マックスさんの言葉に自然と笑みを浮かべた。 「無理は絶対にしませんし、勝算はあります。なので、ギルドに加入してもやっていけるという覚悟のほどを、皆さんにお見せします」

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