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第3話 あの人だ!

「あー……ほぼっていうのは、ぱっと見ただけで判るやつらがまだ来てないってことなんだけどまあいいや。まずは新入生の諸君、入学おめでとう! この一年間寮長を務めることになった三年の榎本満(えのもとみちる)です」  満開の笑顔ってこういうのを言うんだろう。アイドルグループもかくやの魅力的な笑顔。緩くウエーブした栗色の髪、パッチリと大きな二重の目。かっこ良さと可愛さの間にある絶妙のバランスの綺麗な顔立ち。  ああ、変わってないな……この人。  突然の再会にうろたえながらも懐かしさに涙ぐみそうな俺を、隣の席から携が気にしているのが判る。でも、今は何も説明できない。 「不本意ながら副寮長に選ばれた同じく三年の南隆生(みなみりゅうせい)です」  その隣では、折角整っている容姿なのに無表情のせいで輝きがなくなってしまっている先輩が顎を引いた。いかにも伸びかけという感じのスポーツ刈りをしている。 「あー……まだ根に持ってんのかよー南~。えーと、俺たち本校の方でバッテリー組んでたんで、俺が寮長に指名された時についでにこいつも引きずり込んだんで未だに恨まれているらしいっす」  あちこちでささやかに笑い声が上がる。  そうそう、昔からずっと捕手だった。てことは副寮長は投手なんだな。  頭を掻き掻き、寮長の説明は続く。 「最初に言っとかなきゃなんないのは、当初の予定より二、三年生の希望者が少なくて五十人づつしかいないってことです。まあつまり新しい星野原のメインは、新入生の皆さんということで。当然部活動も一年生がメインでオレたちは補佐的な立場に回ることになります。寮則と一緒に候補の部活動をプリントしておいたんで後で各自部屋に持ち帰って入部届けは担任に提出してください」  ここに置いとくな~と、わら半紙に印刷されてホチキスで留められた書類の束が出入り口傍のテーブルの上にどさりと置かれた。 「まあ細かいことは読んでもらえば判るとして、オレらも今回が初めての寮生活になるんで、皆団体行動は乱さないように、特に食事の時間と消灯前の点呼、それから入浴時間は守ること!! 掃除とかも当番制なんで割り当てを確認のこと。後は仲良くやっていけたらいいなと思います」  最後の締めのように寮長が力強く言って、もう一言言い添えようと息を吸ったときに、閉まっていた扉がからりと開いて更に二人入室してきた。  開いた口をそのままにじっとりとその二人を睨みつける寮長。対してその二人はこの場の約三百人の注目を浴びているのもものともせずに普通の歩調で入って来た。 「あ、わり。邪魔したな」 「みっちゃんごめんね~」  手刀を切るようにして二人が最前列にどさりと腰を落ち着ける。  寮長は怒りでぷるぷると肩を震わせていたが、この場で爆発させるのは良くないと思ったんだろう、苦虫を噛み潰したような顔で、 「早速悪い見本です。こういう悪目立ちはぜっっっったいにしないように」と強調。  その後もうひとくさり喋った後で「じゃあ後は食事をして適当に解散」と締めるまでの数分、二人は言い訳もせずに黙ってこちらを向いて座っていた。もっとも、解散と聞いた途端にカウンターに食事を取りに行きもう一度腰掛けたのだが、その時には向かい側に寮長副寮長が腰掛けてしまい俺からは見えなくなってしまった。  そうなってからも、新入生たちの視線はそちらにばかり行ってしまう。これは寮長が見知った人だった俺に限ったことではない。何しろ後から入って来た二人が印象的過ぎて、知らず知らずに目が行ってしまうんだ。  一人はハリウッド・スターでもこんな美丈夫は滅多に御目にかかれないほどの金髪碧眼の長身だし、もう一人は終始仏頂面を隠そうともしない鋭利な印象の艶やかな黒髪の野性的な人で──携に確認するまでもなく、あの時のあの人だと確信した。

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