9 / 145
第9話 応援団に立候補してみた
学級委員は入試の成績順だったのか、委員長は携で副委員長は青野武 というパッと見運動部っぽいあんまりそういう役職にはならなさそうなやつだった。
だけど携がマイペース無口なんで釣り合いが取れていて丁度いいかも。担任、なかなかいい仕事してます。
因みに担任は坪田というがっちり体育会系のマッチョな先生だ。ちょっとした不良なら腕の一振りでノックアウト出来そうな素晴らしい筋肉。多分俺のことなんか片手でぶら下げられるんだろうな。
ロングホームルームは、改めてそんな三人の紹介から始まりテキパキと体育会の段取りへと進んで行く。
クラスの出し物としては、立て看板と仮装行列があり、応援も含めていずれかに全員参加しなければならない。勿論俺は何としてでも赤組の応援団に入るつもりだった。
気合十分! うずうずしながら進行を待つ。
「まずは立候補募集します」
委員長の携が、黒板に間を空けて三項目を板書する。書道を習っていただけありかっちりした字を書く。
「応援団は赤と白それぞれ二名づつとのことなので、先にこの四人を決めてそれから残り全員を半分づつに分けて赤白決めたいと思います。
クラスの出し物には色は関係ないので、好きな方を選んでください。但しあまりにも人数に隔たりがあったら移ってもらうかもしれません。はい、じゃあまずは希望者」
言い終わるのを待たずして勢い良く右手を挙げる。
──ん? 俺だけっすか?
「あー……霧川」
もう何を言うかは判っているのか、携はげんなりした様子で手の平を俺に向けた。
「赤組の応援団希望ですっ!」
どよどよどよ。クラスメイトたちが一斉にざわめく。
え? 何? なんなの? かっこいいじゃん応援団。
くるりと背を向けて携が板書している間に前の席から香山 が振り返って話し掛けて来る。
「霧川~、良く考えてみろよ。五月末に学ランだぞ? めっちゃ暑いぞ? おまけに演舞だぞ? 型憶えるの大変じゃん」
なるほどそんな理由で皆選ばないわけか……!
「いんだよ。かっこいいからそれだけでいいんだ」
競争率低くてラッキーとしか思えない。
「しかも寮長の白組じゃなくて赤組選ぶなんて、お前ほんっと物好き……」
こっちを見ているクラスメイトの視線が珍獣を見るときのそれになっている。
まあ確かにみっくんといると楽しいし優しいんだけどな。
今の俺にはそんなの関係ねえ! 少なくとも練習時間はずっと浩司先輩と一緒に居られる。それだけでこの先一ヵ月半幸せなんだ。
「他にはいないのかー? 皆霧川みたいなやる気を見せてみろ~っ」
青野が教卓の横から全員を見回している。
どよどよがざわざわになり、こそこそになった頃、仕方ないなあと言いつつ青野本人が白組の方に自分の名前を書いた。
「これで後二人になったぞ。絶対にこのクラスからも出さなきゃいけないんだからさっさと誰か手ぇ挙げろー。じゃなきゃくじ引きにするからな」
ついに教室はしーんと静まり返った。それぞれにびくびくと周囲を窺っている様子だ。俺こういうの苦手なんだよな~。やりたくなくても居た溜まれずにこの時点で立候補しちまうっていう性格なんだ。
教卓では静かに携が手を動かしている。くじを作っているに違いない。
本当なら携もこういうの苦手で率先して引き受けるタイプなんだけど、炎天下に立つのとか無理なんだよなあいつ。それに絵を描くのも好きだし、きっと立て看板のデザインがやりたいに違いない。
五分経過しても誰も手を挙げなかったので、携がわら半紙の下半分を折り畳んだ物を皆の前に掲げた。
「じゃあ早い者勝ちのあみだくじに決定。自分の名前を書いた後、好きなところに横線一本足すように」
ヒッと皆一瞬息を呑んだ後、我先にと教卓にと押し寄せる。
残り物には福があるっていうけどなあ……?
俺は頬杖をついてそれらを見守り、くじで大当たりしてがっくり肩を落としている残り二人が名前を書かれたあとは他のクラスメイトたちが残り二つの出し物に名前を書き込むのをぼへーっと眺めながら、学ランを着た浩司先輩の雄姿を妄想しては幸せな気分に浸っていた。
ともだちにシェアしよう!