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第8話 顔緩みすぎらしい

 二年三年は二クラスづつしかないけれど一年生は五クラスあり、なるべく多く友人を作ろうという意味合いなのか寮と同室の者もクラスは分かれるらしい。  かろうじて出身校だけは考慮されなかったのか、なんと携とは同じクラスになった。といっても「き」と「ひ」だから出席番号は離れていて当然席も遠い。まあ移動教室も多いし教室での席順なんて授業が始まっちまえばあまり関係ないんだけどな。  二~四校時の実力考査はまあ……うんもう忘れよう。これが俺の実力だから仕方ないよな!  開き直って指定の割烹着と帽子を被って給食を取りに向かう。  そう、全寮制なため購買はあっても当然誰も弁当など持って来ていないわけで。小中と同じで給食制なのである。朝昼晩トータルで栄養管理してくれるので、今までより体にいいかもしんないな~。  しっかし、この年でまだこの服を着ることになろうとはね……トホホ。まあ全員着るわけだしいいんだけど~。  因みに今日の献立は、春の彩りご飯、青菜とシメジのおひたし、ジャガイモの味噌汁、バナナ。副菜の係なので俺はおひたしを配るのか……こういうのって少し控えめに注がないと足りなくなったりすんだよな。気をつけねば。  給食場についてみると、クラスごとにワゴンに乗せて置いてあった。おお、こりゃ楽チン~! なんと二階三階にはワゴン用のエレベーターがありそれに一緒に乗っていってもいいらしい。勿論普段は使っちゃ駄目で、運搬専用だとか。つまり明日からは誰か一人下に降りてワゴンを積み込めば全員で移動しなくても教室のある階で受け取ればいいわけだ。といっても俺たちは1年B組だから一階なんだけどな。いつか使う日が楽しみだな~。  羨ましげに目の端で見ながら歩いていると、階段から降りてきた人たちとぶつかりそうになった。 「うあ! ご、ごめんなさいっ」  咄嗟に謝罪すると、「大丈夫だよ~」と何処かで聞いたことのあるバリトン。  ん? なんと金髪王子じゃないですか! って名前知らないから勝手に渾名をつけてしまったんだけど……その隣にはあの人もいて。 「浩司先輩」  ん? とこっちを向いた顔は、マスクのゴムを左耳に引っ掛けてぶらんと垂らしている。配る時だけするのかなあ。 「ああ……霧川弟か。長いな」 「長いなら名前で呼べばいいじゃん」  と金髪王子から突っ込みが入る。  ああ、何が長いのかすら俺にはわかんなかったや。流石友達? 「なんだっけ、名前」 「か、和明です! カズだけでいいですっ」 「あー、じゃあ次からカズな。短いのはいいことだ」 「どんだけ喋るの億劫なんだよ」  金髪王子からまたも突っ込まれていたけど、俺は涙が滲みそうな位感激していた。グッジョブです! 名前確かウォルターだったけど、ありがとう金髪王子! 「おーい、霧川―! 皆待ってっぞー」  後ろから同じく当番の植田の声がする。もっと話したいところだけど、仕事しなくっちゃ。 「じゃあな」「またねー」  先輩たち二人の声に促されるように、俺はぺこりとお辞儀して小走りにクラスメイトたちの後を追った。  名前呼び! 名前呼びだー! やったーっ!  にやけた顔は殆どマスクで隠れていたから問題ないと思っていたら、携にはばれていたらしい。 「気持ち悪い……」  トレイを持って俺の前に並んだ時に呟かれ、慌てて緩んだ表情を立て直した。  その後はそのまま自分の席で皆黙々と食事を終えて、片付けは順番に一人づつでやることになり、今日はもう俺はお役御免らしい。5人づつ一班一週間担当するので俺は最終日だ。  ワゴン一台あるだけで凄えなあ。ありがとう! ワゴンとエレベーター!  感謝しつつの昼休み、俺は先程の出来事を携に説明した。  黙って聴いていた携は「ふうん」と頷き、 「まあ、そんなこったろうと思ったけど」  と嘆息した。 「なっ! 凄えだろ、昨日の今日でもう名前で呼んでもらえんの。あー、次会った時テンション上がりすぎて気ぃ失いそう……」  胸の前で両手を組んで一人で浸りつつ、頭の中は今日の浩司先輩の姿と声がエンドレスリピート。 「流石にそれは恥ずかしすぎるから気をしっかり持つように」  ぽんぽんと宥めるように両肩を叩かれ、我に返る。 「掃除場所、後ろの壁に貼ってあるって言ってたの確認しようぜ。俺、図書室行ってくるし」  ああそうか、昼休みの後掃除をしてからロングホームルームだったっけ。  どうせ最初は五十音順だから教室担当なんだろうなと思って貼り紙を見てみたらその通りだった。携はトイレ。  俺は殆ど本に興味がないので図書室の前で携と別れて、そのままふらふらと校内を歩き回った。

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