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第15話 恋人がいたらこんなとこまで来てません

 気分が下降気味のまま部屋に戻ると、後ろから早足で近付いてくる足音。  俺が開けたドアが閉まる前にすり抜ける様にして智洋が飛び込んで来た。 「なんだよ、また一人で先に帰っちゃって」  別段取り決めをしているわけじゃないけど、智洋は食事にしろ風呂にしろ俺に合わせて行動してくれている。流石にマイペースにしすぎたかと思い「ゴメン」と謝った。 「あのさー」  智洋はがしがしと自分の頭をかき回している。髪の毛が半乾きだ。俺がもたもたと着替えている間にサッと乾かしたんだろうな、時間差から考えて。  でもそんなに慌てて追いかけてくることも無いのにな。どうせ戻るところは同じだし?  そんな感じで不思議そうに見つめていると、あーとかうーとか唸りながら、今度は俺の頭に手を伸ばしてきて髪をくしゃくしゃにされた。 「わ、何すんだよ~っ」  逃げるように腕を伸ばしてブロックしてもその間をかいくぐっては、くしゃくしゃと。でも、意地悪でやってるんじゃないって事はわかるので、俺の方からもやり返してみたりした。  笑いながら半ば本気でやり合っている内に、腕が絡まったまま智洋に押される感じで俺はベッドに倒れこんだ。 「わっ」「うおっ」  二人の声が重なって。  体重かからないようになんとか智洋が腕をついてくれたけど、体も重なっていて。 「……床じゃなくてラッキー?」  見上げて微笑んでみたらば、意外にも真剣な感じで見下ろされてて。  えーと。  何か答えてくださーい……。  しばらく沈黙が落ちて。仕方ないので、 「天使が通ったな」  なんてもう一度笑顔を浮かべてみた。  智洋は一拍空けて唇の端を上げ、それから横を向いて、は~っと長い息を吐いた。 「……と、智洋? どうかした?」  あー、ともう一度唸ってから、 「どうかしてるぜ、俺。気の迷いだ気の迷いっ」  ぶつぶつと一人ごちて。  でっかい独り言だな? てか、そろそろどけて欲しいんだけども。  あ、ようやくこっち向いた。まだこのまんま話すの? 「あのさー。一応念の為訊くけど、和明って付き合ってるヤツとか好きなヤツとかっている?」  おうふっ、いきなり恋愛トーク始まりますか……。でも別にこの体勢でやらなくてもいいんじゃないかとか思うんだけど、なんか真剣っぽいので口は挟まずにおこう。 「付き合ってる子いたら、こんな山奥には来ないんだけど?」  憧れの先輩追っかけちゃったくらいだしなあ。 「だよなあ」  溜息をつきつつ、ようやく体をどけてくれて上空が開放される。 「え? もしかして街に残してきた彼女思い出して寂しくなったとか!?」  ガバッと起き上がりながら逆に問うと、智洋は背を向けて奥に向かうところだった。  智洋は携みたいなきっちり整った美形じゃないけど、ちょっとワイルドでかっこいい顔立ちをしているからな。彼女いて当たり前かーって思う。 「ちっげーよ!」 「えー、ホントかなあ。絶対モテてたろー」  俺もベッドから下りて後を追うと、さっさと椅子に腰掛けてくりっと机に向かわれてしまった。 「さ、予習しとこうっと」  そう言って数学の教科書など並べられてしまうともう続きは聞けそうも無かった。  ちぇーっ。体験談とか聞きたいのにな……。  とはいえ、俺も雑談にかまけてるわけにはいかないのは確かだった。  まあいいや、またの機会にでも。

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