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第19話 なんでそんなに怒ってんの?

 部屋に戻ると、智洋はそのままベッドの下にある引き出しに袋の中身を入れ始めた。ここにいると平日は外に出ることがないから着替えはあまりなくてもいい。でもまあ、あればそれなりに助かりはするので文句は言わなかったんだろうな。 「ねーちゃん可愛かったな~綺麗っていうか」  かなり性格は強引な方だろうけど、見た目はいい感じだ。正直にそれを言うと、今までしゃがんで黙々と手を動かしていた智洋は、ベッドに腰掛けてそれを見ていた俺を振り返って見上げた。 「……ああいう顔、好み?」 「好みだけど、智洋のねーちゃんだからな~好きにはならねえと思うけど」  笑いながら答えると、ふうんと鼻を鳴らして智洋は引き出しを閉めた。 「俺、顔似てるかな」  結構マジな顔して呟いて、一人分位間を空けて隣に腰掛けてくる。 「系統は違うけど、どっちも整ってるし、智洋はかっこいいと思うよ」  なんか昨日のこと思い出しちまった……もしかしてまた恋バナ? 聞けなかった続き聞けるのかなあ。  ちょっとワクワクしながら横顔を見つめていると、ぷいと顔を逸らされてしまった。  あれ? ちょっと見すぎちゃったか……。 「……んなに見んなよ」 「だ、だよな。感じ悪いよな、ごめん」  慌てて謝ってまっすぐ前を見るようにすると、 「じゃなくて~……」  がしがしと頭を掻きながら智洋が上半身ごとこっちに向き直った。 「マジでかっこいい?」  え? 自覚ないの? 「うん」 「こ……こういう顔好きってことか?」 「う、うん?」  アップに耐えられる顔だし、嫌いじゃないから素直に頷く。浩司先輩もワイルド系だし、俺こういう雰囲気の顔に憧れてんのかもしんない。出来るならとっかえて欲しいくらいには好きだ。 「じゃ、いい」  ん? なにが? 見てても構わないってこと?  良く判んないけど、許可が出たらしいので俺はもう一度智洋に向き直った。  やっぱり真面目に話す時は相手の目を見ないとだよな! 「十分かっこいいから、自信持てば? 俺もそんな顔とかルックスが良かったよ」 「何言ってんだよ、和明は今のままがいいんだろ」  こっちもマジで返されちゃいました。  いや、もっと男っぽい顔がいいんだけどな……もう何年かしたら縦に伸びんのかなあ。  真剣な顔で向き合っている俺たちってば、何も知らない人から見たらおかしいんだろうな。これで男女なら愛の言葉でも囁いてんのかって感じなんだろうけど。  あ、顔の件で思い出したー……。  表情がどよんとした俺を見て、智洋が首を傾げる。 「どうかしたか?」 「いやー、ちょっとやなこと思い出した」 「なんだ? クラスでいじめるやつでもいたか?」  一瞬で気色ばむ智洋の肩を手の平で押しとどめる。 「じゃ、ねえんだけど……。今日知り合ったばっかのヤローに二人も『可愛い』って言われてさ~へこむわ~」  はあ、と溜息をついてから視線を戻すと、智洋の目が吊り上がっていた。 「──なんていうヤツ? クラスは? 同級?」 「えっ、いや、怒るようなことはされてねえよ? 女役似合うからやれとか言われただけで」 「女役だあー!?」  宥めるつもりが何だか火に油注いだような。  あれ? ホントのこと言っただけだよな? 女のキャラ作ったらって言われただけだし。  え? なんでそんな怒ってんの?

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