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第24話 なんか距離感おかしくない!?
あの日の浩司先輩たちが画面の中で舞うのを眺めていたら、魂が離脱していたらしい。
後ろから肩を叩かれて、飛び上がりそうなくらいにびっくりした。叩いた方も驚いたらしく、
「おわっ」
と手に持っていたジュースの紙カップをお手玉しながら体勢を整えている。
「ご、ごめんっ」
片手にジュース、もう片手にパンの入ったビニールを数個下げている谷本が苦笑しながら立っていた。
「あ、そっか。食堂もう閉まってるもんな」
「寝てる間はいいけど、やっぱ一旦起きたら食わねえともたんわ」
谷本は一番前の座席に腰掛けて机に食事を並べた。
流石に購買は日曜日に開いていないけれど、そこはそれ育ち盛りの高校生を賄うんだからか校内にも寮内にもパンやアイスの自販機が並んでいる。そこから買ってきたらしいラージサイズの炭酸飲料と、惣菜パン菓子パンが三つ。俺でもそれくらいはぺロッと平らげるから、それより十センチも身長高い谷本なら尚更だろう。
「じゃあ食ってる間、もう一回流してみよう」
俺はさっきまで腰掛けていた机から下りると、リモコンで巻き戻してからまた再生した。
流石に食事中の机にケツを載せるのは悪いと思って、机の横に脚をはみ出させている谷本の傍に立ったまま画面を見遣る。
視聴覚教室の机は、横に数人並んで腰掛けるタイプの長テーブルだ。今更谷本の内側に入るわけにも行かないし、反対側の椅子ってのも距離をとっているみたいでなんだか悪い気がしたんだ。
しばらく黙々とパンを食べていた谷本が、また意識を持っていかれていた俺の腰に腕を巻きつけるようにしてぐいと引いた。そのまま太腿の上に跨るように腰を落としてしまう。
「座れよ」
「ちょっ、でも、重いしっ」
「重くねえ」
うう……確かに筋肉もそんなについてないし、標準体重より軽いですけどっ。
遊び半分で自分から座ったりすることはあっても、座らされたのは初めてだ。誰も見ていないって判っててもなんか恥ずかしい。
おまけに……手がそのまま腰にあるんだけども。これ、どうしたら?
背後では咀嚼音が続いている。また画面に目を戻したものの、どうにも集中できない……。
二回目の再生が終わり、机に置いていたリモコンに手を伸ばす。
「流れは掴めたから、軽く真似してみようかな~」
巻き戻しながら振り返り、ギョッと固まる。
なんで画面じゃなくて俺見てるんかな……ち、近っ!
「ジュース飲む?」
「あ、うん、もらう」
生徒会長ほどじゃないけど、谷本も声低いよな。耳元の空気が震えている気がする。
クラッシュアイスがまだ融けきっていないままのジュースを受け取り、少し飲んでから返すとそのままごくごくと……あれ? 今カップ回したよね。わざわざ飲み口変えて──同じ場所にした? まさか。
「あ……れ?」
気付いたことに気付いたんだろう、谷本がにやりと笑った。
「シェアすんのは問題ないわけね」
「あー……うんまあ。男同士で間接キスとか騒ぐようなことじゃねえし?」
そんなことで囃し立てて喜ぶのは小学生の中学年から高学年の間くらいだろうと思うんだけど。
デッキは巻き戻し終えて止まったまま。
「えーと……んじゃやってみようかな」
再生ボタンを押して立ち上がろうとしたんだけど、巻きついた腕が緩まない。
「た、谷本?」
画面の中で演舞が始まった。
「食休み。霧川も付き合って」
「う、うん」
なんだ。確かに食後すぐ動くのは体に悪いもんな。
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